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パレスチナ

東エルサレムの学校から:困難の中で静かな変化を生み出す生徒たち 東エルサレム、事業モニタリングレポート

みなさん、こんにちは。エルサレムもすっかり寒くなりました。こちらは石造りの家が多く、家の外よりも中が寒いという状況になっています。今回は東エルサレム事業のモニタリングに行った際のエピソードを紹介したいと思います。

今回訪問したのはハッサン・アッサーニー校です。東エルサレムの、旧市街から近い場所にある学校です。JVCとパートナー団体のMRS(医療救援協会)は、学校保健委員会の生徒たちに様々なトレーニングを提供し、生徒たちが地域の人たちと一緒に、少額の資金を用いて地域の問題を解決するプロジェクトを実施しています。この学校ではボロボロの机と椅子が問題になっており、それを解決することが目下の課題として挙がっていました。まず対象は高学年である7-9年生(日本の中学生にあたります)のクラスの机と椅子の買い替えと修理です。学校保健委員会と、委員会とMRS間のコーディネーターを務める教師の働きもあり、当学校に通う子どもを持つ大工さんが資材を調達し、ボランティアで茶色の塗装をしてくれたとのことでした。資金が足りず、まだあと3クラスほど、机と椅子の修理をしたいクラスが残っていますが、生徒たちの学習環境は格段に良くなったようです。


(新しくなった机と椅子で勉強をする生徒たち。)

修理された椅子と机を使ってみた感想を聞いたところ、

「今までは(ボロボロの机で服も本も破けるし、不安定だし、見た目が良くないから)悲しかったけど、今は(見た目もきれいだし、怪我もしなくなるし)嬉しい!」
「前は机や椅子がボロボロで(ささくれによって)服や本が破れていたんだけど、今は破れない!」
「もっと学ぶ気持ちになった!」
「前はボロボロの机や椅子で手を怪我していたんだ。テストの紙も破けていたんだよ」
「前は机ががたがたいっていたよ。ずっと動くから集中できなかった」
「今はリラックスできる」

など、ポジティブな感想がたくさん聞かれました。


(修理されていないクラスでは、椅子の背もたれも外れていました・・・。)


(低学年のクラスでの修理は資金が足りず、壊れたままでした。)

当学校を担当するMRS保健師のアスマは、「今年も来年も役立つ、永く使えるものにしたかった」と話していました。彼女は普段はおとなしそうに見えたのですが、低学年クラスで彼女が行う栄養講座を見学に行った際、その真剣で情熱的な講義を目の当たりにし、その内に秘めた子どもたちへの熱い想いを感じました。


(低学年のクラスで子どもたちに描かせた「健康な朝食」の絵を見て生徒たちの理解度をはかるアスマ)

しかし、元気いっぱいの彼らが抱える悩みは占領の影響を受け、とても深刻です。インタビューでは下記のようなコメントがありました。

少年1:何か事件があるとすぐに(エルサレム)旧市街の門(ダマスカスゲート等)が閉まってしまう。兵士が道端で僕たちを止めて質問してくる。理由なんかないのに。
少年2:いつも学校に来るのに1時間から2時間かかる。検問所で長く待たされるから。家を出るのは6時か6時半だよ。(学校は8時開始)
少年3:軍の侵攻の多いエリアから来ているから大変なんだ。

東エルサレムの公立の名門校として有名な当校は、分離壁の内外から生徒が来ます。しかし検問所を通ってくる生徒も多いため、毎日通うのは楽ではありません。学校にくる最中でも、アラブ人というだけで兵士から嫌がらせを受けたりすることもあります。また、彼らの住む地域や学校の近くで何か事件が起これば、さらに移動が制限され、何時間か家に帰れないこともあります。


(インタビューに答える学校保健委員会の生徒たち。とても落ち着いている生徒たちでした。(14歳))

彼らの日常は困難が多いですが、それでも学校保健委員会の生徒たちはトレーニングを受けて自分たちが変わり、生活のすべてにおいて良い変化があったといいます。そこから周りに静かながら前向きな変化をもたらし続けています。これからも可能な限り、皆様に生徒たちの変化を報告していきたいと思います。

今回はボランティアでモニタリングに同行いただいた日本人の方の感想も紹介いたします。

ボランティアで参加された、エルサレム在住日本人、Nさんの感想

エルサレムで実施されているプロジェクトのモニタリングに現地代表の山村さんが行く際、同行させてもらいました。向かったのは対象校のひとつ、東エルサレムの旧市街から遠くない、公立の男子校でした。

2年生から9年生までが一つの敷地で学んでいます。プロジェクトは、学校保健委員会の生徒たちに健康や救急法などのトレーニングを行い、そのトレーニングを受けた生徒たちが地域と協力して、地域の保健・衛生に関する問題を解決していくのですが、健康に関する問題の解決や、健康状態の改善だけが目的ではなく、子どもたちの自尊心の育成も目指していると聞きました。背景には、イスラエル側による日常的な行動地域の制限や兵士による身体検査、身近な人が拘束された話など、パレスチナ人は普段から厳しい環境におかれ、子どもたちは自分たちの存在意義や、地道に努力をすることの大切さを見失っている現状があります。

ここでの課題は国際政治の問題が根本にあり、活動による改善は見えやすいものではありませんが、せめて今の子どもたちの状況が悪い方向に行かぬよう、少しでも多くの前向きな体験をさせていきたい、という山村さんの言葉に、できることを真摯にやる誠実さとやさしさを感じました。子どもたちの中には、毎日検問所を通り、1時間半もかけて学校に来ている生徒もいて、検問所でのトラブルも子どもたちにとっては日常だったりします。学校保健委員会で活動する生徒たちにインタビューしましたが、前向きで先生とも率直に意見交換をしている様子でした。

また、プロジェクトを担当するコーディネーターの行う栄養に関する授業も、子どもたちは食い入るように聞き、炭酸飲料による糖分の取りすぎなど、実践的な教えを分かりやすく伝えていました。教室に行くたびに手を振ったり握手を求めてきたりと人懐っこいパレスチナの子どもたちも、日本では考えられないような苦労をしています。そんな彼らの状況と、その中で行うプロジェクトの意義を学ぶことができました。


(学校保健委員会と生徒たち、彼らをいつも見守るITの先生、保健師のアスマと記念撮影。)

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