REPORT

パレスチナ

パレスチナで歯医者に通いました!(2)

こんにちは。エルサレム駐在員の山村です。

エルサレムに来てから1ヶ月ちょっとの時、地元の歯医者に通うという何とも貴重な経験をしたことについてのお話、第二弾です。

翌日、恐る恐る昨日もらった名刺の番号に電話をし、歯医者の予約をしたい旨を伝えると、流暢な英語で「今日は~時までやっているよ。その時間までならいつでも対応するから、来られる時に来なさい。」と、落ち着いた声の男性が話してくれました。「これは期待できる!」と藁にもすがる思いで仕事終わりに歯医者へ向かいました。

その歯医者はいつも通勤で通っている大きな通りから少し中に入ったビルにあり、大きく看板も出ておらず、何とも地味な場所にありました。影にある雑居ビルの中に入ると、一室に歯医者らしき看板が・・・!ブザーを鳴らすと扉が開き、小さな待合室が現れました。確かに皆待っているのはパレスチナ人で、外国人の私が急に入って来たことに驚いたのか、受付の女性も含めて驚きの表情で迎えられました。日本のようにオルゴールの音などはない、なんともさっぱりした待合室で少し待つと、名前が呼ばれて診療室へ通されました。小さな、しかし清潔で新しそうな診察室の中に診療台は一つだけ。そしていかにも頼れそうで実力のありそうな風貌の先生が現れました。「私はあなたにかけましたよ・・・!」と心の中で思い、あたりを見渡すと、壁にはたくさんの国際会議へ出た証書がかけてありました。その中にはエジプトのカイロ大学歯学部の卒業証書もあり、「きっと大丈夫に違いない・・・!」と、安心して治療を待ちました。


(歯医者の前に置いてある看板)

先生は軽く歯を見て、「うーん。歯の神経が死んでいるかも知れない。今からレントゲンを撮ってきて」と、言われました。ショックを受けつつレントゲン技師がいる下の階の一室へ出向くと、ドアも締めずにレントゲン撮影がおもむろに始まり、その場で撮影代の20シェケルを支払い、レントゲンの結果はその場で一つ上の階にいる先生にデータで送信されました。先程の診療室に戻ると、先生がスマホでレントゲンの結果を見て(なんてハイテク・・・!)、一言。「君の前歯の神経は残念ながら死んでいる。ここ、黒い部分、見えるだろう?あまり時間がない。根管治療というものをやることになるけどいい?神経をとらずに保存するにはこの方法しかないんだ。君にはもう選択肢がない。」

衝撃の宣告です。急に歯が死んでいるなんて、しかも選択肢が私にはないなんて・・・。先生が「今やる?今度にする?まあ今日の分は10分で終わるよ。」というので、その場で治療を受けることを即決しました。麻酔の注射も打ち、高い技術がいる施術で、それなりに出血もしたのですが、先生は同じ部屋にいる同僚と話をしながら、また時々家族と電話で話しながら治療を無事終えてくれました。(頼むから集中して~と思う私は間違っているのでしょうか・・・)やはりパレスチナ人、歯の治療の最中も助手や電話の先の相手とペチャクチャ話していました。「帰りにトマト買ってきて」といった内容のやり取りを家族としていたように聞こえました・・・。一番私を心配させたのは、同じ部屋にいたもう1人の歯科医の態度です。必死に死にそうな歯に対する救出劇が繰り広げられている横で、コメディドラマを見ながら「アハハ・・・!」と笑っていたのです!ねえ、それ、今見る必要ある・・・?こっちは真剣なんですけど・・・!と思いながら、彼は無視しながら治療に専念することにしました。

もろもろ不安要素はありましたが、先生の腕に狂いはありませんでした。実は矯正もしていたせいで歯科医院への通院歴の長い筆者ですが、日本の歯科医の腕と比較しても全く劣っていなかったと思います。

治療が終わると、先生からこの治療は全三回、毎週月曜日の同じ時間に通えば終わること、全部で12000円かかることを告げられました。歯の治療は日本の保険が効かないので高いのですが、高度な技術のいる治療だったにもかかわらず、思ったよりも安く済みました。



(日本と変わらない治療器具)

三回治療に通い、最後にアイザリーヤの歯医者に行かされそうになった話を先生にしてみると、先生は次のように答えました。「それがパレスチナの問題なんだ。ここは色々と困難が多いんだよ。同じレベルの医療をどこでも受けることができない。エリアによって大きなギャップがある。ここはエルサレムだからイスラエル側にもパレスチナ側にも登録されていてレベルが保証されているから安心してもらっていいけどね。ここは技術は全くイスラエル側と変わらないよ。それに向こうより安いしね」

先生が使っていた接着剤はなんと日本のものでした。「日本のものはいいよ、日本のものはなんでもいい!きみの国はなんでもあるよね」と、made in Japanを愛用している様子でした。もう二度と歯科医にかからないように歯のケアには気をつけよう、と気を引き締めると同時に、また何か歯に一大事が起こっても、この先生がいるなら安心だな・・・と甘えてしまいそうな自分がいました。ただ、お金があるパレスチナ人はこうしてきちんとした歯医者に通えますが、お金のない家ではペンチで虫歯を抜くしか無いとのこと。そこに信頼できる医療があるのに手が届かない・・・やはりパレスチナの中でも貧富の差が大きいことを日々実感します。きっと最初に著者が連れていかれた研修医のところも、お金がない人たちにとっては歯を抜く、以外の唯一の選択肢かも知れません。



(先生とツーショット写真。後ろに並ぶのは国際会議への出席証明書。)

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