「よく殺してくれた」と言う少年に出会って
10月11日、火曜日の夕方。東エルサレムにある自宅を出たところで、中学生くらいのパレスチナ人少年たち3人に声をかけられました。近所の子どもたちです。 そのうちの1人、黒くて大きな目をした、人懐っこそうな少年が私に言いました。
「お姉さん、いつもウチの店に来てるだろ? あの店、いま閉まってるんだ」
「どの店?」
「あの、ロックフェラー公園の前のスーパーだよ」
確かにそれは私の行きつけの、夜遅くまで開いている便利なお店です。店長も店番の青年も優しくて、よくお世話になっています。聞いてみれば、お店は「シャヒード(殉教者)」の追悼のために喪に服しているとのことでした。
「シャヒード」は宗教的な闘いに身を投じて命を落としたムスリムのことですが、パレスチナにおいては、主に占領者イスラエルとの闘いで命を落としたムスリムを意味します。そして10月9日の昼間、私の家から徒歩10分くらいのところで、パレスチナ人による銃の乱射事件がありました。この事件でイスラエル人が2人死亡、5人負傷。犯人は39歳男性で、その場で射殺されています。この犯人もまた、パレスチナ人にとっては「シャヒード」なのでした。
(「アルアクサーの獅子・ミスバーハ・アブー・スベイフの殉教のため閉店」と書かれた、スーパーの張り紙。)
少年が無邪気な顔で、言葉を続けました。
「銃を乱射したのは、あのスーパーの店主の従兄弟だったんだ。だから、お店も殉教者を追悼してるんだよ。今回の殉教者はすぐに撃ち殺されたけどさ、ユダヤ人をよく殺ってくれたよ」
「ユダヤ人をよく殺ってくれた(atal ilyahood mniih)」。
無邪気な顔でそう言う彼に、私はやっとのことで言葉を返しました。
「そう......。彼に神の慈悲がありますように。でも、私は暴力には反対よ」
私自身はイスラエルの占領政策に反対ですが、一般市民が犠牲になることについても反対です。パレスチナ人がイスラエル市民を殺そうと、イスラエル人がパレスチナ市民を殺そうと、それは私にとっては許容し難い暴力だからです。
それでも、私の答えを聞いた瞬間に、彼の顔から屈託の無い笑みは消えてしまいました。
「暴力だって? お姉さん、聞くけど、いったいどれくらいパレスチナにいるの? 合計で1年半くらい? そう、だからアラビア語を喋るんだね。でも、それくらい居たら、分かるだろう? ユダヤ人がガザでパレスチナ人にしていることは何なんだ? 暴力だろう?」
イスラエルによる大規模な暴力は何度も絶え間なく起こり続けているのに、どうしてパレスチナ人による暴力が批判されなければいけないのか。 そんな少年の憤りが感じられて、私は正直なところ、返す言葉がありませんでした。
今回の事件で、お店を閉めて喪に服したのは、このスーパーだけではありません。東エルサレムでお買い物に便利な目抜き通り、サラーハ・ディーンも、観光客が多く訪れる旧市街も、多くのお店が9日の午後から翌朝までお店を閉めていました。
町内会か何かで情報が回り、社会的な同調圧力もあるのかもしれません。それでも、エルサレムでパレスチナ人たちが暮らす東側が全てシャッター街になった光景は、異様な静けさと緊張感に満ちていました。
そして銃乱射事件のあと、犯人の家族が住むパレスチナ人の街・シルワーンやアッラームでも衝突が多発しています。イスラエル軍による強制捜査があちこちに入り、犯人の17歳の娘や父親は逮捕。捜査に来た軍用車両に若者たちが抗議して投石し、兵士は催涙ガス弾で応じながら若者たちを逮捕する事件が相次いでいます。
(シャッター街になったサラーハ・ディーン通り)
「暴力には反対」。私が意見を口にするのは容易です。それでもここに暮らしていると、時にそのサイクルの大きさと重みに目が眩むような感覚があります。 JVCは、東エルサレムの若者たちが暴力へと流れるのではなく、自尊心をもってより良く生きるための「レジリエンス」向上事業を進めています。しかし私はここで何かの事件があるたび、その事業の意義深さと同時に、ゴールの遠さを思い知らされています。
誰かが誰かを殺したことを、少年が喜ぶ社会。現状は厳しいですが、私たちには「この状況をなんとかしたい」と願って行動するパレスチナのパートナーNGOがついています。彼らスタッフたちと意見を交換し合いながら、着実に事業を進めていきたい......と、改めて感じたひとときとなりました。事業の中で出会う青少年たちについても、これからお伝えしていきたいと思います。
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