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アフガニスタン

「村で行われた奇跡の平和集会」 ‐アフガスタン政府とタリバンの停戦実現!それでも続く暴力の連鎖を断ち切るために-

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(武器を持つタリバン兵士とともに。現地スタッフサビルラ(左端)の手には「平和」の文字)

よいニュースと悪いニュースと

ここ数日でアフガニスタンの情勢は大きく動いています。なんと、アフガニスタン政府とタリバンの間で3日間の停戦が実現したというすばらしいニュース、また、JVCスタッフの出身村で行われた奇跡の平和集会の知らせが飛び込んできました。しかし、そうした動きを狙った自爆攻撃についての痛ましいニュースも、同時にやってきました。

現地からのニュースがきたのは、6月16日の金曜日の夜でした。「断食月ラマダン明けの祝祭(イード)に合わせた停戦を祝うタリバンと政府治安機関メンバーが集まる群衆の至近距離で爆発...」とあります。...驚愕しました。

実はこの停戦自体が2001年9月11日後の外国軍の軍事介入後、これまで一度も実現していなかった初めてのことです。事前にガニ大統領が呼びかけていた停戦にタリバン側が応じ、祝祭日に合わせた6月15-17日の3日間、本当に停戦が実現したのです。この間に政府支配領域に入ることが可能になったタリバンと政府治安機関のメンバーがお互いに抱き合うという信じがたい映像がメディアでも流れています。

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(軍の車両に乗って停戦の喜びを表す若者たち)

しかしこれに続いて起こったのが自爆事件でした。停戦を祝う人びとを狙ったこの事件...36名が亡くなり、50名近くが負傷しています。政府治安機関ならびにタリバン双方のメンバー、一般市民が犠牲になっています。JVCの事業地からもそう離れた場所ではありません。「IS」を名乗る勢力が犯行声明を出しています。「IS」は停戦に従う全ての者たちに対して攻撃を行うとしています。

さらに翌々日、6月17日の日曜日には、JVCの事務所のあるナンガルハル県ジャララバード市で自爆攻撃があり、18名が亡くなり、50名近くが負傷という事件が起こっています。県の施設のある地区から出るタリバンの車両を狙ったものという情報が入ってきました。タリバンと政府との会合?本当なのか?にわかに信じることができません。そして、市民が犠牲になっているのです。どういうことなのか...?

村人による平和を訴える奇跡の集会が実現

実はこの会合は、村で行われた奇跡的な平和集会を受けて行われた市民と県知事との対話だったのです。そして、この試みにはJVC現地スタッフが積極的に関わっていたのです。

今回の停戦を受け、JVCスタッフの一人の出身地であるメムラ村では、青年のグループを中心に、平和に向けて、この停戦をなんとか延長できないかという大きな動きが生まれていました。JVC現地スタッフの一人が個人的な活動として、そのグループでの中心的役割を果たしています。青年たちは、普通の村人だけでなく、タリバンや、政府関係者、メディアなどを招いて、何とか停戦の延長に向けた方法について話せないかと考えたのでした。政府が関係する場所では困る、メディアは困る、などなど、何度かタリバンからも拒絶されたものの、様々な条件をクリアし、また部族長の助けも得て、ついに、開催が実現したのです。

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(政府側とタリバン側が対話できるよう、JVCのスタッフや部族長たち、青年グループが立ち回り実現した集会)

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(メムラ村の子どもたちと「平和」と書かれたサインを掲げて)

暴力、力による支配が支持されているかのように思えるアフガニスタンの現状ですが、ふたを開けてみると、武器をとって戦う人びとですら、平和を渇望しているのです。数千人が集まったようです。市民が間に立つことで、通常であれば対話などありえない、政府側とタリバン側とで様々な意見が交わされました。アメリカのこと、隣国のこと、そして市民からは、JVC現地スタッフも、次のように述べました。「犠牲者は私たちだ。私たちが望んでいるもの、それは平和だ。」

最終的にこの集まりの合意事項として、停戦の延長を県知事に訴えるということになったのでした。市民の自発的な要求として。一方で、集まりに参加していた政府関係者の様々なアレンジなどもあり、県知事との話し合いにはタリバンのメンバーも加わっていました。そして県知事との集会の後、施設の外で自爆攻撃が起こったのです。多くの市民が犠牲になりました。

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(住民たちによる、県知事への停戦延長申し入れの様子)

暴力の連鎖を断ち切るためのさらなる働きかけを

タリバンとの3日間の停戦の後、大統領は停戦の延長を発表しましたが、タリバンはこれを受け入れていません。3日間の停戦直後からすでにタリバンによる政府軍への攻撃、激しい戦闘が報告されています。

しかし、この束の間の停戦にどれだけの人びとが-市民も、政府軍兵士も、タリバンも-歓喜したか、そして村で行われた平和集会でどれだけの人びとが停戦を、平和を求め、行動したのか、あらためて心に刻む必要があります。

停戦の間に起こった事件により亡くなられた方のご冥福を謹んでお祈りするとともに、 ご家族や親族、友人の皆さまに心より哀悼の意を表します。そしてこの機会に、JVCは以下の三つについて訴えます。

1.この間の停戦を歓迎し、さらなる延長のよびかけが受け入れられ、継続されることを求めます。
2.市民ならびに戦闘外の人びとへの暴力を非難し、ただちに暴力が停止されることを求めます。
3.全ての関係国・勢力、関係者に、和平プロセスを進めることを求めます。

JVCがこれまでにも主張してきているとおり、暴力で問題の解決をもたらすことはできません。それによってもたらされるのは悲しみと怒りだけです。JVCは上記について訴えるとともに、非暴力で平和をつくっていきます。

執筆者

小野山 亮アフガニスタン事業現地統括

世界中にある数々の紛争、争い。何とか解決できないのでしょうか。政府でも国際機関でも、組織や団体でも、そして一人の市民でも、それぞれにできることがあるハズ…ですよね。そんな気持ちから、これまで主に、平和、民族などの分野に関わっています。市民としての立ち位置で現場に寄り添うような活動を行なうNGOの世界に身を置き、いくつかの団体で勤務をしてきました。これまで、スリランカ駐在での内戦や津波からの復興および救援活動のほか、いくつかの国や地域での生活支援、啓発や提言活動などにも従事してきました。2012年7月よりJVCに参加、現職についています。

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