REPORT

スーダン

避難民住居の新設(7)オクラの季節と新しい生活

前回から続く)

日本人がオクラを食べることを話すと、たいていのスーダン人は少し驚きます。トマトやニンジン、キュウリなどと違ってオクラには「スーダンの食べ物」というイメージを持っているからでしょう。調べてみるとオクラの原産地はアフリカ北東部。まさにこのあたりがオクラの「ふるさと」なのです。

10月下旬、そろそろ雨季も終わりに近づいてきました。 私たちが建設した避難民住居100戸への引越しが終わり、約2ヶ月が経っています。入居した皆さんはどんな生活をしているのでしょうか。
「こんにちは」
家の前にビニールシートを敷いて、お母さんたちと子どもが集まって何やら作業をしています。声を掛けて近づくと、オクラの輪切りをしていました。オクラは、この地方での大切な栄養源。輪切りにして乾燥させたものは「ウェーカー」と呼ばれ、シチューの材料として欠かせない乾季の保存食なのです。

          
                                    (家の中でもオクラ加工)

「このオクラ、どうしたのですか?種をまいて育てたのですか?」
ここに入居してから育てたにしては、収穫のタイミングが早すぎます。
「違うよ。森から集めてきたんだよ」
「森」というのは、木がうっそうと茂った森のことではなく、丘陵地帯に向けて広がる草原や灌木帯のことです。自生しているオクラというよりも、人が植え付けてそのまま繁殖したものかも知れません。
「ウェーカーができたら、どうするのですか?自分で食べるのですか?」
「それもあるけど、市場に持っていって売るんだよ。あと、ここまで人が買い付けにくることもあるね」
わざわざ買い付け人が来るとは驚きました。小規模ながら「生産地」になっているようです。

          
                                                                      (ラクバの下でもオクラ加工)

「ところで、今日は入居した人から少しお話を聞かせていただこうと思ってきました。お忙しいところすみませんが、お願いします」
JVCスタッフのサラが、母親のひとりにインタビューを始めました。
「カドグリには、いつ来たのですか?」
「(2011年)6月の、あの戦争が起きた時だよ。夫は村に残して、子どもたちを連れて逃げてきたね」
「そのあと、家は?」
「最初は親戚の家にいたけど、狭くてね・・近くに空地があったので、そこにビニールシートで囲いを作って住んでいたよ」
「住み心地は、どうでした?」
「雨や風が吹き込んで大変だったさ。でもそれよりも、いつ地主が来て追い出されるんじゃないかって、そればっかりずっと考えていたよ」
「今は、どうですか」
「やっと自分の家が持てたんだ。もう、追い出される心配もない。軒先に小屋を作ることだってできる。マンゴーの木だって植えられるよ」
「マンゴーですか?何年かかるんでしょう?」
「おやまあ、考えたこともないよ」
みんな、大笑いです。

          
             (オクラの輪切り加工をする母親たちにインタビューをするサラ(左下))

新しい避難民住居の間を歩いていくと、あちこちの家庭でオクラの加工が行われていました。家の中や庭先、そして、自分たちで組み立てたラクバ(草ぶきやビニールシートのあずまや)の下で作業をしている家族もいます。
作業の手を休めてもらって話を聞くと、皆さん同じように、今までのカドグリ市内での生活の難しさや不安を話してくれました。炭焼きで稼いだおカネが毎月の家賃に消えてしまったという家族。空き地に小屋を建てたら、地主から「地代」を請求された家族。そして、いつ追い出されるか分からない不安。 私たちの避難民住居建設は、こうした避難民に大きな安心を提供したようです。

「今までは市内で洗濯(家事手伝い)の仕事をしていたけれど、ここから市内に出るのは大変だし、どうしようか考えている」
そう言った人もいました。確かに、生計向上は大きな課題です。
しかし、ここならば市内とは違って、家の周りに多少の土地があります。今後、避難民が何年にわたってここに住むのか、住まなくてはならないのか、誰にも分かりません。でも、ここでは木を植えて畑を耕すこともできるのです。

家の庭にオクラを植えている人を見つけました。入居してすぐに種をまいたのでしょうか。すくすくと成長して、黄色い花を付けています。
それは、小さな希望のように見えました。

          
        (庭で農作物を乾燥させている家。周囲にはオクラが植えられ、黄色い花を付けている(左下))

「避難民住居の新設」シリーズは、これで終わります。ありがとうございました。

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