REPORT

スーダン

スーク(市場)の種屋さん

青ナイル川にかかる橋を渡って、乗り合いバスはバハリと呼ばれる地区に入っていきます。

青ナイルと白ナイルの合流点に位置する首都ハルツームの都市圏は、川によって三つの地区に分けられています。ナイル左岸のオンドルマン、右岸のバハリ、そして青ナイルと白ナイルに挟まれた真ん中がハルツームです。

政府庁舎が集中し高級住宅地も広がるハルツームにくらべて、オンドルマンやバハリは庶民の町。ハルツームに比べて物価は安く、スーク(市場)は多くの人で賑わっています。私たちを乗せたバスはモスクの前を通り抜け、スークの雑踏の中で止まりました。

JVCハルツーム事務所のスタッフ、モナと私の行き先は、スークの外れにある種屋さんです。バスを降りてしばらく歩き、オート三輪の音がうるさい裏道に入ると、両側では揚げ魚を山積みにして売っています。ナイルの流れが近いからなのでしょう。威勢のいい売り子の声を受け流して進んでいくと、食品市場、鶏肉市場、そして住宅建材の店が続き、その先に、種屋が軒を連ねています。

          
             (ルッコラはスーダンでは「ジルジル」と呼ばれ、サラダには欠かせない)

活動地の南コルドファン州カドグリでは、これから菜園づくりの研修を行うことになっています。研修を受けた参加者には、ルッコラ、モロヘイヤなどの種子を支援します。モナと私は、それを調達するためここにやってきました。購入した種子は、長距離バスに載せて700キロ離れたカドグリに送ります。

ざっと見ても20軒以上の種屋さんが集まっていました。商品棚に並んでいるのは、ナスやキュウリ、トマトなど缶に入った輸入品の種。モロヘイヤ、カボチャやウリは国産の種で、大きな麻袋に入って店頭に並んでいます。そんな光景を見ながら何軒か回って話をしてみると、どういうわけか、自分の店ではなく「あっちの店の評判がいいよ」と教えてくれる店主さんがいます。正直なのか、お人好しなのか・・。そうした情報を頼りに探し当てた「評判の店」は、国内産の種を専門に扱う小さな店でした。店先には種が入った麻袋がびっしりと並んでいます。
ジャラビーヤ(スーダンの男性に一般的なガウン状の白い服)を着た、人の好さそうな店主が出てきました。
麻袋の中を覗くと、私の素人目にも新鮮な種に見えます。お客が多いので、いつも次々に新しい種を仕入れているのでしょう。
値段の交渉をしながら、「どこから、どうやって仕入れているのですか?」と尋ねてみました。

「そうだね、いちばんの仕入れ先はセンナール州(スーダン南東部の州)かな。センナールのあちこちにね、長年にわたって種を買い付けている農家があるんだよ」
「信頼できる農家、というわけですね」
「そうだな。でも、作物の出来は年によって違うし、畑によっても違う。農家には、毎年毎年、いちばん出来のいい畑を種のために取っておいてもらうんだよ」
なるほど。そうした農家との関係を持っているから、種の品質が良いのでしょう。
私たちの注文に応じてルッコラ、モロヘイヤ、オクラ、クレソンを袋に包んでくれた店主は、おまけにカボチャの種も分けてくれました。
「ところで、あんたがたはこの種をどうするんだい?」
確かに、外国人がこんなところに来て種を買うなんて、かなり不思議です。

「私たちは援助団体なんです」
モナが答えました。
「南コルドファン州で、避難民が野菜を作るのを支援しています」
「ほう、そういうことか」
店主はうなずきながら、
「南コルドファンは、まだ戦争が続いているのかい?」
と尋ねてきました。
「それが・・戦争が始まってもう4年近くになるけど、全然終わりそうになくて・・」
「どうして戦争なんかするのかね?」
「えっ?」
意外な質問に、モナは不意を突かれたようです。
「この国には、土地はいくらでもある。水もある。種をまいて作物を育てれば、いくらだって食べていける。いったい何に不満があるっていうんだい?」
確かにその通りです。どこまでも続く大地とナイルの水。南コルドファンなど国の南部では雨季に十分な雨が降ります。

「みんな、土を耕すことを忘れてしまったんじゃないか。だから、戦争なんかやっているんだろう」
店主は、静かに笑っていました。

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