REPORT

スーダン

閉まったままのウォーターヤード(2)

前回

数日して、アフマドさんから電話がありました。
「アドラン、きのう井戸管理委員会の話し合いをして、新しいメンバーを決めたよ」 「そうですか。どうなりました?」
「男ひとりと女がふたり。男のほうはオマルってやつに入ってもらって、自分と二人で操作係をやる。女は、ハリマさんとアワディヤさんが引き受けてくれた」
「門番の件は?」
「うん。ハリマさんにはもうカギを渡したよ。アワディヤさんと交代で門番をやってもらうことにした」
「それはよかった。うまくいくといいですね」

アドランは、少しほっとしました。ハリマさんもアワディヤさんも顔見知りですが、活発な人たちです。これで、多少はうまくいくのではいかと思いました。
1週間ほどして、様子を見に行ってみました。ウォーターヤードではハリマさんかアワディヤさんが門番をして、女性たちが水汲みをしているだろうと想像しましたが...あれ? ウォーターヤードは閉まっています。

あわててハリマさんの家を訪ねてみました。
「ハリマさん、ウォーターヤードが閉まっているのですが?」
単刀直入に聞いてみました。
「だって、カギがないから開けられないよ」
「えっ?だって、アフマドさんは、ハリマさんにカギを渡したって...」
「そうだよ。でもね、それから2、3日したらブシャラが私のところにやってきてね」
ブシャラさんは、井戸管理委員会のリーダーです。
「『女には当番はできない』って言って、カギを持っていってしまったんだよ」

「ちょっと、何よそれ。いったん預けたカギを取り上げてしまうなんて」
JVCハルツーム事務所のスタッフ、モナはカドグリ事務所からの報告を電話で聞くとプリプリ怒り出しました。
「だから男ってダメなのよ。何もできないくせに、常に自分たちがコントロールしていないと気が済まないんだわ」

アドランの報告によれば、ウォーターヤードはこの数日の間、稼働しているそうです。アフマドさんとオマルさんが毎朝、門を開けているのでしょう。でも男性が外出してしまったら、いつまた閉まってしまうかも知れません。

幸いなことに、避難民向け住居にはブシャラさんが戻っており、井戸管理委員会の話し合いが持たれることになりました。JVCスタッフにも出席してくれるようにと連絡がありました。これから出掛けようというアドランに、モナが電話で話をしています。

「いい、アドラン、避難民向け住居でいつも生活しているのは誰かしら。男、それとも女?」
「女です。男はそもそも数が少ないし、避難民向け住居に住んでいても、あちこちに出掛けることが多くて留守にすることが多いです」
「そうね。じゃあ、水汲みをするのは誰かしら。男、女?」
「答えるまでもないじゃないですか。女の人と、子どもたちです」
「男の人は、水汲みができる?」
「男は、そもそも水が運べません。頭の上にポリタンクを乗せて歩けないから」
「そうね。それじゃ、ウォーターヤードの門の開け閉めは、どちらがやるのがいいでしょう?男、それとも女?」
「女のひとたちです」
「そうね。話し合いで井戸管理委員会の役割分担を決める時には、『これは男の仕事』『これは女の仕事』と決めつけるのではなくて、誰がやったらうまくいくかを皆で考えたらいいわ」
アドランは、クルマに乗って出かけていきました。

話し合いには井戸管理委員会以外にも大勢の人々が集まりました。全部で60人ほど、大半は女性です。
「最近、ウォーターヤードが閉まっていることが多いけど、いったいどうしたの?」 そんな声が相次ぎました。
それに対して、リーダーのブシャラさんは委員会の新メンバーを紹介しながら「これからは当番制を組んで、毎日開けるようにする」と説明。


いつもの木の下に大勢の人が集まった話し合い。女性たちのトブ(1枚布の着衣)が色鮮やか)

「門の開け閉めは誰がすることになるのでしょうか」
アドランが尋ねてみました。ブシャラさんはアフマドさんと少し相談してから、
「門番の女性2名にカギを預けて、毎日の開け閉めもやってもらう」
と答えました。
多くの人が集まった場で、ブシャラさんも少し現実的な考え方になったのかも知れません。

8月になりました。雨季の合間の青空に、プカプカと雲が浮かんでいます。
ウォーターヤードを訪れると、水汲みや洗濯をする女性たちで賑わっていました。洗濯というのは、たいてい井戸や泉の周りでするものです。何杯もの水を家に運ぶより、洗濯物を井戸まで持ってくるほうがずっと楽だからです。衣類が乾くのを待つ間、門番のアラディヤさんを交えておしゃべりが続いています。


再開されたウォーターヤード。フェンスには洗濯物が干してある)

「これで、まずはひと安心」
再開されたウォーターヤードの様子に、アドランは胸をなでおろしました。
実は、それが本当に「ひと」安心でしかなかったことが後で分かるのですが、それはまた次の機会に書くことにしましょう。

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