ウォーターヤードの「暑い」日々(2)
3月下旬、暑さと乾燥のピークを迎えて、ティロ避難民住居のウォーターヤードはフル稼働していました。
水を求める人々、そして家畜。
さらに、菜園への水の供給を巡り、菜園メンバーと井戸管理委員会とのやり取りが続いています。
そうした中、私たちは井戸管理委員会と協力してウォーターヤードの利用調査を行いました。
調査といっても、朝から夕方まで、給水所にやってくる人数とポリタンク、そして家畜を数える単純作業です。
1日だけの調査ですが、結果として、利用者はのべ298家族(母親と子供などが連れだって来たら「1家族」とカウント)、水を汲んだポリタンクの数は840個。
利用者数については、同一の家族が午前と午後の2回にわたって来ることが多いので、実際には、約半数の150家族が利用していると見るのが妥当かも知れません。
この避難民住居には全部で230家族が入居しているのですが、残りの80家族は、ウォーターヤードとは反対の南側にある手押しポンプ井戸で水汲みをしているのでしょう。
家畜については、1日に864頭(大半はウシ、少数のヤギ)が水を飲んでいました。
約1ヶ月前の話し合いで、井戸管理委員会は「給水の契約をした家畜は395頭」と説明していました。
その時から、倍以上に増えています。
「3月に入ってから、ここで水を飲ませて欲しいという家畜の持ち主が何人もやってきて、契約を増やしたんだ」
というのが、ウォーターヤードの管理人をしているアフマドさんの説明です。
しかし、契約を増やすのは良いのですが、料金の回収はどうなっているのでしょう。
「1ヶ月単位で支払う契約だからね。3月に入ってからの契約はまだ1ヶ月経っていないから、入金もこれから先だよ...」
こうした「人間」と「家畜」の需要を満たすため、アフマドさんの話では、発電機とポンプは毎日およそ5時間にわたって稼働しているそうです。
1時間当たりの揚水量は5千リットルですから、単純計算すると2万5千リットルが毎日の揚水量=消費量です。
調査結果をもとに計算すると、このうち家庭での消費はポリタンク(15リットル入り)840個分、合計1万3千リットル程度。
総消費量の約半分になります。
残る半分のうち、菜園への給水はわずかなもので、大半を占めるのは家畜給水だと思われます。
1万リットルは超えるでしょうか。
それにしても、800頭を超える家畜が毎日やって来て、1万リットルもの水を飲むとは、全く予想していませんでした。
4月初旬、JVCスタッフのタイーブとアドランがウォーターヤードを訪れると、クワさんたち菜園メンバーが管理人のアフマドさんのところにやってきて、口論の真っ最中でした。
「もう2日間、菜園のホースに全然水を流してくれないじゃない。今日で3日目よ」
いつもは静かなナフィサさんやアマニさんが口々に不平を言っています。
これにタイーブは少し驚きました。
「毎日暑いから、どこの家も何度も水を汲みにくるし、家畜もたくさん来る。菜園にまで水を回せないんだ」
アフマドさんはそう弁解していましたが、クワさんが
「このままじゃ、野菜が全部ダメになってしまう」 と詰め寄ると、
「分かった、じゃあ、家畜の給水が終わったら菜園に水を流すよ」
と言ったので、やっと騒ぎは収まり、クワさんたちは菜園に戻っていきました。
「アフマドさん」
給水塔の下の椅子に腰掛けたアフマドさんにタイーブとアドランが声を掛けると、
「なんだ、あんたら、来てたのか」と言って、
「菜園メンバーは文句ばかり言うけれど、分担金も十分に払ってくれないし、とにかく今は水の消費量が多くて大変なんだ」とこぼし始めました。
「こんど、井戸管理委員会と菜園メンバーとの間で、もう一度話し合いを持ってはどうですか?」
アドランが、そう提案しました。
「それと、家畜の持ち主からの料金回収の方法も、みんなで考えたらどうでしょう」
「そうか...そうだな。ウムダ(住民リーダー)のバクリさんにも相談して、来週にでも話し合いを持つことにするよ」
「はい、それがいいと思います。話し合いが決まったら、連絡をください」
アドランがそう言うと、耳元でタイーブが
「おい、アドラン、ちょっとあれ見てみろよ」とささやいています。
目にしたものは・・・
給水所に視線を向けると、さっき苦情を言いにきたナフィサさんとアマニさんが、ほかの女性に混ざってポリタンクに水を汲み、頭に載せると家の方角ではなく菜園の方にそそくさと歩いていきます。
「へえ、ポリタンクでこっそり作物に水を運ぼうっていうんだな」
タイーブは何やら感心しています。
アフマドさんは「あとで菜園のホースに水を流す」と約束しましたが、彼女たちにしてみれば、信用して待ってはいられないのかも知れません。
そのアフマドさんは、彼女たちに気づいているのかいないのか、知らないふりです。
しかし、せっかくホースが設置されているのに、わざわざポリタンクで水を運ぶのもおかしなことです。
やはり、菜園メンバーと井戸管理委員会とがきちんと話し合って解決することが一番です。
(続く)
【おことわり】
JVCは、スーダンの首都ハルツームから南に約700キロ離れた南コルドファン州カドグリ市周辺にて事業を実施しています。紛争により州内の治安状況が不安定なため、JVC現地代表の今井は首都に駐在し、カドグリではスーダン人スタッフが日常の事業運営にあたっています。このため、2012年1月以降の「現地便り」は、カドグリの状況や活動の様子を、現地スタッフの報告に基づいて今井が執筆したものです。
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