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スーダン

井戸管理委員会のマネジメント研修

JVCの赤いレンタカーは朝から大忙しです。ぬかるんだ道に気を付けながらティロ地区の避難民向け住居まで2往復、井戸管理委員会8人のメンバーをJVC事務所まで運んできました。いえ、正確に言えば8人プラス1名でしょうか。メンバーのサファさんが、1歳になる男の子、アダム君を抱いているからです。

今日、9月29日からの2日間、ここでマネジメント研修が行われます。8人全員が座ると、狭いJVC事務所はいっぱいになりました。アダム君はお母さんの膝の上から離れないようです。

「この研修では、みなさんの『委員会』がよりよい活動をするために、必要なことを一緒に勉強していきます。よろしくお願いします」

講師の話に耳を傾ける8人)

講師を務めるのは、州政府社会開発省の専門家、タリクさんです。州内各地で、研修を通じて住民の地域活動を手助けするのがタリクさんの役目です。

「では最初に質問です。みなさんは、何の委員会ですか?これからどんな目的で、どんな活動をするのでしょう。教えてもらえますか」
すぐに返事がありました。
「はい、先生。私たちは井戸管理委員会で、これからウォーターヤードの運営をします」
「そうですか。では、ウォーターヤードは何のためにあるのですか?」
「みんなが水を汲みにきます」
「おいおい、それだけじゃないだろう」


出された課題に頭を抱える男性陣を尻目にアダム君をあやすサファさん)

横で聞いていたメンバーが口を挟みました。
「先生、家畜や『ロバの水売り』に水を売って、おカネをもうけます」
「おカネもうけが目的ですか?おカネは何に使うのですか?」
「みんなの暮らしをよくするのに使います。子どもたちの学用品を買ったり、製粉機を買うのもいいかな?」
「それはよいですね。ほかに、何かアイデアはありますか?」
「ニワトリを飼って増やしたらどうかしら。私、やったことがあるわよ」
 と少し自慢げに話すのはニダさん。

「いや、ヒツジの方がいいんじゃないか」
とアフマドさん。
「みんなで食堂やお茶屋さんを出したらどうかしら」
と言うのはアダム君を膝に乗せたサファさん。なるほど、スモール・ビジネスですね。
「食料品店もいいかも」
「三輪オートバイを買って、タクシーをやったら」
アイデアはとどまるところを知りません。

「先生、そう言えば、少しのおカネで露店を始めて、だんだんに商売を大きくしていった人が村にいました」
長身のルドワンさんが、そう話し始めました。今日もジャラビーヤ姿です。
「どこの村ですか?」
「私が前に住んでいた村です」
「どうやって商売を大きくしたんでしょう?」
「詳しく分かりませんが、少しずつおカネを貯めていったようです。5年くらいはかかりました。でも最後には、村でも一、二の立派な店を出すことができたんです」
「そうですか。素晴らしい成功例ですね」

講師のタリクさんがそう言って話を進めようとするのを、ルドワンさんが「でも先生、そのあとなんですけど・・」と言って遮りました。
「2年前に戦争が始まって、飛行機から爆弾が落ちてきて村人はみんな避難しました。その人のお店も、財産も、結局は全部なくなってしまいました」

8人がひと通りアイデアを出し合ったあと、タリクさんが言いました。
「それぞれ、面白いアイデアですね。でも、まず第一歩は、委員会がウォーターヤードをきちんと運営して収入をあげることです。では、運営をスムースに行うために大切なことは何でしょう?」
「メンバー全員が協力しあうことです」
ブシャラさんはリーダーだけあって、優等生のような回答です。

「メンバーが、お互いにウソをついたりせず、みんな正直者になることです」
と言うのは、アフマドさん。
「そうですね。ウソをついたりゴマかしてはいけませんね。委員会はおカネを扱うこともあるので、そのことは特に大切ですね。では、あとでおカネの管理の仕方を勉強しましょう」


研修の楽しみはこれ!みんなで昼食)

研修ではこのあと、委員会の運営ルール、メンバーの役割分担、収入簿や支出簿の付け方、銀行口座の開設方法など、実際に役立ちそうな様々なことを勉強していきました。

2日間の研修は、あっという間に終了です。
「困ったことがあったら、いつでも連絡してください」
タリクさんはそう言って、締めくくりました。
最後に、8人がひとりひとり修了証を受け取っていきます。サファさんは、アダム君を抱いたまま片手で受け取っています。

修了証を手に記念撮影)

「アダム君も2日間ずっと参加したんだから、修了証をもらう資格があるね」
みんな、そう言って笑っています。
アダム君は、サファさんが紛争で夫を失った後、カドグリでの避難生活の中で身ごもり、生まれてきた子です。はっきりと「父親」を名乗る人物はいません。そのような子を「神様からの贈り物」と呼ぶ人もいます。今のカドグリでは珍しくありません。 慣れない雰囲気に疲れたのか、ぐったりしたアダム君。お母さんに抱かれて、井戸管理委員会のメンバーと避難民向け住居に戻っていきました。
委員会が忙しくなるのは、これからです。

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