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パレスチナ

2014年ガザ戦争から1年:「国連人権委員会報告書(決議S-21/1)」-2014年のガザ戦争における人権・人道法違反に関する調査報告書が出ました【3】

これまで2回、2014年ガザ戦争に関する「国連人権委員会報告書」について読み解いてきました。大分時間があいてしまいましたが、今回はその3回目で最終回として、特筆すべき戦争犯罪、特にイスラエル軍からの「救急車・医療従事者への攻撃」、「避難所への攻撃」、とガザ武装勢力、イスラエル軍による「捕虜等の扱い」について、また、結論とイスラエル・パレスチナ双方への勧告内容についてまとめていきたいと思います。現地では26日に停戦一年目を迎えました。この一年、ガザの復興が殆ど進んでいない中、物質的な復興だけに囚われず、こうした国際的な勧告に基づく国際法違反への対応が、復興を早める一助となり、また紛争や占領問題の根本を根絶するための足掛かりとして機能することを切に願います。

イスラエルによる医療機関等への攻撃

はじめに、ガザ内部におけるイスラエルからの医療従事者、救急車、医療施設への攻撃です。報告書のまとめによると今回の戦争中、イスラエルの攻撃によって、ガザ側の23人の医療従事者が亡くなり(うち18人は任務の遂行中)、怪我をした医療従事者は83 人にものぼります(123、124頁)。また30台の救急車が 攻撃により破壊もしくは被害を受け、1つの病院と12の一次医療施設が全壊、15の病院と51の一次医療施設が攻撃により大小の被害を受けています(159頁)。通常時のガザでさえ、封鎖の影響で医療品や医療施設の不足が問題視されているわけですが、戦争期間中の医療サービスの提供はこうした物理的攻撃と破壊によって、著しく損なわれ、また患者数も急増している中、適切な治療を受けられなかったために亡くなった方、生涯にわたる障がいを負った人の数も上昇したとも言われていま(159頁)。


破壊された救急車)

言わずもがなですが、こうした医療施設や医療従事者への攻撃は人道法上禁止されています。報告書はこうした医療関係者、施設への攻撃そのもの、或いはこれによって人命が危機に晒されたことは国際人道法違反であり、イスラエルによる戦争犯罪であると結論付けています(124、125頁)。下記は救急救命士の証言と、戦争中にガザ内部で活動していた国際赤十字が発表した言葉です。

「どうか、私の同僚たちが正義を行えるように助けて欲しい。どうかイスラエルが自分たちへの攻撃をやめ、自分たちの仕事を全うさせるようにしてほしい」(証言117)
「国際赤十字委員会は、こうした人道的に働く人々と、救急車、医療施設への(イスラエルからの)攻撃について確固たる非難を行う。こうした攻撃は戦争法違反であり、直ちにこれらをやめるべきである」(国際赤十字委員会ガザ及びヨルダン川西岸地区支部2014年7月27日)(122頁)

イスラエルによる避難所への攻撃

次に、避難所への攻撃について見てみます。今回の戦争中、域内避難民の数は日を追うごとに増えて行きました。7月の地上侵攻が始まった後には、ガザの全人口180万人の内、4分の一以上、実に28パーセントにあたる50万人もの人が家を離れ(155頁)、安全な場所を求めて域内を移動しました。その理由は、最大時44パーセントにも上った立ち入り禁止区域の増加(※地図/UNOCHAサイト、PDF、10MB) と、イスラエル軍からの攻撃警告などが挙げられます(105頁)。前回の記事でも記しましたが 、普段からガザは人口密集地として有名で、1平方キロメートル当たり5千人近くがくらしています。しかし立ち入り禁止区域の影響で、戦争中は、1平方キロメートル当たり10,200人以上が暮らしていた計算になります。そうした中に雨あられとミサイルや砲撃が降り注いだのですから、85箇所あった避難所の学校も、常に人口過密でした。

しかし、こうした背景があって尚、避難所も攻撃対象となりました。報告書によると、今回の戦争中7つの避難所がイスラエル軍により攻撃され、44人から47人の避難民が殺されました(うち子ども14人、女性4人)。イスラエル政府は攻撃の理由として、当該避難所周辺や避難所からガザ側の武装勢力からの攻撃があったためとしていますが、目撃者の情報によれば、攻撃された避難所及び周辺で実際そのような武装勢力による活動があったことが認められておらず、また一部避難所への攻撃について、イスラエル軍からの避難民への攻撃に係る警告も一切なかったとしています(112-118頁)。確かに、国連の運営する学校のいくつかに、ガザ側の武装勢力が武器を保管していたという調査結果(118頁)もありますが、攻撃された避難所となっていた学校はそのいずれにも当てはまらず、イスラエルの言うところのガザ武装勢力の存在と攻撃の真偽が問われています。

こうした事について、報告書は、甚大な被害が見込まれる上でのイスラエルからの大砲による攻撃は市民の生存を担保したものとはいえず、「無差別攻撃」或いは市民への直接的攻撃と認め、戦争犯罪であると指摘しています(119頁)

「UNRWA(※)は安全だと思った。だからこそ、そこを避難所にしたのです。私たちは家を強制的に出る他無かった。十分なほど血が流れました。何故、私たちの子どもは殺されたのでしょう?」(14歳の子どもを避難所で亡くしたカリド・アリ・イスマイル・アブ ハーバ氏の証言、117頁)(※国連パレスチナ救済事業機関の意。戦争中UNRWAが運営するガザ各地の学校が避難所となっていた)
「ガザには安全な場所などありませんでした。私は(避難所となっていた)学校こそ、私と私の家族のために安全だと思ったのです。でも私にはそれは当てはまらなかった。私には一切の正義など訪れません。私は夫を失いました。そして今両親を頼って暮らしています。善意とは限定的なものでしかありません」(夫が殺され、子どもが怪我をした避難所にいた女性の証言、115頁)

イスラエル軍による捕虜の取り扱いと、ガザ武装勢力によるスパイ処刑について

また、イスラエルによって拘束された捕虜の取り扱い、及びガザ武装勢力によって行われたパレスチナ人スパイ(コラボレーター)の処刑についても、国際法違反として言及があります(91頁、132頁)。前者については被害者の情報によって、また後者についてはガザ内部における一部の聞き取りによって明らかになったもので、それぞれ裁判なしでの拷問、また後者については処刑が行われたといわれています。

「血の海の上に死体がありました。死体に対して敬意はありませんでした」(ガザ武装勢力によって処刑されたスパイの死体についての証言005、130頁) 「社会に拒否されたために、家族の生活は立ち行かなくなりました」(スパイの家族の証言022、131頁)
「イスラエル兵は私に繰り返し尋問しました。3日間自宅に軟禁され、その間トイレに行くことも食事を摂ることも許されませんでした。彼らは私のベールを取り去りました。私は彼らに自分が未亡人であることを伝えると、彼らは私に、ここであなたが消えても誰もあなたのことを心配する人がいない、と言いました。私は恐怖しました...私は女ですが、彼らは全て男でした」(イスラエル軍に拘束されたガザ中部ホザーの60歳の女性の証言232、91頁)

これら双方の行いについて、報告書は国際人道法違反、ならびに市民的及び政治的権利に関する国際人権法違反であるとしています(91頁、132頁)。ここで注目したいのは、スパイとされた人々の家族も、ガザの社会を裏切ったものの親族として社会的に罰せられ、その後ガザ内部で教育を受ける事も、働く事も出来なくなること、また処刑については、裁判が無かったことは勿論、ガザの実行政府によって公に認められたものですらないということです(132-133頁)。こうした家族への二次被害や、犯罪の責任の所在が曖昧となる構造は、ガザの政府のみならず、ガザの社会の闇でもあります。
また、イスラエルの捕虜の取り扱いについても、問題が多く指摘されています(92-93頁)。例えば上記の証言をした女性は、拘束中始終窓際におかれ、イスラエル兵をガザ武装勢力から守る盾とされていたと考えられています。また、拘束中に、ガザ装勢力が隠れているかもしれないトンネルへの偵察を強要され、その後も食事、水、トイレへのアクセスを厳しく制限された中で拘束され続けました(93頁)。こうして、捕虜に軍事任務を強要する事、また人間の盾とすることは明らかな人道法違反で、厳しく追及される必要があります。

結論と勧告(181頁~185頁)

報告書にまとめられた調査の結論として、調査委員会はイスラエル政府、パレスチナ武装勢力両者の国際人道法、人権法違反を認め、被害者への救済措置を含めた問題の説明責任を両者に求めるとともに、繰り返される暴力的紛争の根本的な解決に向けた両者と国際社会の更なる努力を求めています。また、今までもこうした勧告は出され続け、且つそのたびに改善が見られなかったことを踏まえ、今回の調査について調査委員会は下記のように勧告を出しています。

  1. 全関係者に対し、国際人道法と国際人権法を遵守し、武器使用に際しての市民と武装勢力の区別、武器使用量の比例原則(相手に応じた合理的なレベルであること)、市民の被害を抑えるための予防措置を考慮することを求める。また、攻撃に係る全ての説明責任を果たせるだけの透明性の高い仕組みを構築し、被害者へ速やかな救済措置を講じ、国際刑事裁判所が行う予備調査および今後の調査について十分に協力することを求める。

  2. イスラエル・パレスチナ両政府のリーダーが、暴力の文化を断ち切り、双方の非人間性や憎しみを生み出すような行動を避けることを求める。

  3. イスラエル政府に対し、(パレスチナの)占領という背景を踏まえた上で、軍事作戦を統制する政策および法律執行機関の活動について、綿密性、客観性、透明性、信頼性を担保した見直しを行うよう求める。見直しにおいては国際人道法・国際人権法を遵守し、特に以下の点へ考慮するよう求める。
    1. 人口密集地或いは避難所などの保護されるべき地域とその周辺において、広域に影響する武器の使用を避ける
    2. 武装勢力の定義づけを明確にする
    3. 民間人が暮らす建物への攻撃の戦略を明確にする
    4. 予防措置の有効性を確認する
    5. イスラエル兵の捕虜化を防ぐハンニバル指令適用の際には市民の保護を確認する
    6. 戦闘地域と非戦闘地域を区別する
    7. 群衆管理のための実弾使用を避ける

  4. また、ガザの戦争に留まらず、パレスチナの占領について、イスラエル政府には更に国際人道・人権法を遵守し下記を行うよう求める。
    1. 国際犯罪の調査が国際人権法に基づいて行われ、個々の犯罪の申し立てに対し、その罪にふさわしい起訴、審査、判決が行われることを求める。また調査においては個々の兵士の判断に限らず、各政治的・軍事的組織における上官を含む広いメンバーを対象にすることを求める
    2. ガザ自由船団事件(2010年)が起こった際に提出されたターケル報告2の勧告に基づき、下級兵士の犯罪は上位の軍事司令官および文官にその責任を求めるという規定を制定すること
    3. 全ての責任者による国際法違反に関して調査を行う国際人権団体やNGO、そして報告のフォローアップを行うため人権委員会が組織する機構の受け入れを、イスラエルと占領地パレスチナにおいて許可すること
    4. 紛争を助長し、人権、特に自己決定権に悪影響をもたらしている構造的問題に取り組むこと。ガザの封鎖を迅速かつ無条件に解除し、占領地へのイスラエル人輸送活動を含む全ての入植活動を止め、占領地での分離壁建設の違法性を指摘した2004年7月9日の国際司法裁判所勧告を遵守すること
    5. 国際刑事裁判所の手続きなどを規定するローマ規定に加盟すること

  5. またパレスチナ政府については下記を求める。
    1. パレスチナ自治政府、ガザ実行政府及びパレスチナ武装勢力が、国際人道・人権法違反及び国際犯罪に係る調査を国際的人権の観点から行い、刑事告訴プロセスも含め説明責任を果たし、調査を行うこと
    2. 人権の保護を保証し、被害者への説明責任を果たすために、国民的合意に基づくパレスチナ合同政府の発足に全力をつくすこと

  6. ガザの実行政府及びパレスチナ武装勢力には下記を求める。
    1. 市民と武装勢力の区別、武器使用量の比例原則(相手に応じた合理的なレベルであること)、市民の被害を抑えるための予防措置を遵守し、イスラエル市民とイスラエル市民施設への攻撃を直ちにやめ、また、その他のあらゆるイスラエル市民への脅威となる行いをやめること
    2. 超法規的な処刑と残忍な拷問を防ぎ、これらに対する国家的な調査に協力し、またスパイの家族への社会制裁を払しょくするために全力を尽くすこと

  7. 国際社会へは下記について求める
    1. ジュネーブ条約第一条に則り、イスラエル及びパレスチナの国際人道法の遵守を促進すること
    2. イスラエル・パレスチナ両者による国際人権法・国際人道法の違反を防ぐために、それぞれに働きかけること
    3. 人口密集地における広範囲に影響を与える武器の使用について、市民の被害を避けるための法律や政策の制定を促進すること
    4. パレスチナに関する国際司法裁判所の活動を円滑に行うための支援を行い、普遍的な司法権を行使することで国内裁判所において国際犯罪を糾明し、係る国際犯罪の容疑者が公正な裁判に臨めるよう身柄引き渡しに応じること

  8. 国連人権委員会には、これら多くの勧告、特に調査任務と事実糾明について、それぞれの関係者による実施状況を独自の機構を用い包括的にレビューすること、そして関係者による履行を確実にするための仕組みの構築を模索することを提言する。

最後に

2014年ガザ戦争停戦一年を迎え、3回にわたって、「国連人権委員会報告書(決議S-21/1)」の内容を見てきました。私は国際法の専門家ではないので、その内容について精密且つ完全に捉えることはできなかったかもしれませんが、それでも、個々の被害者、或いは証言者から見た戦争の悲劇と、被害者の人権と正義を回復し得る国際人道法・人権法の重要性、双方への法律の遵守を促進する事の意義を、この報告書から感じました。

ガザの上に、或いはパレスチナの上に正義が訪れる事があるのか?と私の中でも自問自答が繰り返されています。しかし、希望するだけではなく、実現するように動くこと、それが大事なのかもしれません。

JVCでは、今後も現地で活動する国際NGOのグループ(AIDA)や、日本国内でパレスチナ支援を続けるNGOと協力しながら、日本政府やドナーへの働きかけを強めていきたいと思っています。特に勧告上で国際社会に求められていることは、私たちでなければ出来ない使命でもあります。日本政府は7月3日、2015年1月にパレスチナが加盟した国際司法裁判所の予備調査と、「東エルサレムも含む占領下のパレスチナにおける今までの国際法違反に係る調査への全面的協力を求める」国連人権委員会の勧告に「賛成」 を表明しています。こうした姿勢を政府が崩さず、国際法が機能するように陰日向ない努力をすること、また政府が正しい判断をするように、市民社会から提言し続けることが、今のガザとパレスチナのためにできる、根本的で最大の支援なのかもしれません。

執筆者

金子 由佳(現地代表)

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