2015年以来、10年間にもわたる内戦が続いているイエメン。JVCはここで2022年から、現地パートナー団体を通し、主として子どもの教育や保護にかかわる支援事業を行っています。
今回は、昨年11月から12月にかけて2週間ほど現地に出張し、現行事業のモニタリングと現地パートナー団体との振り返り、今後のプロジェクト形成のための打合せなどを行ってきた事業担当者が、現地のいまや、教育支援の課題について報告します。(編集部)
「女性だから」を超えて――イエメンで奪われる学び、守りたい未来
追い込まれたイエメンの教育状況
2015年以来、内戦が10年以上続くイエメンでは、教育が危機に瀕しています。UNICEFによれば、就学年齢の子どもの約4人に1人が学校に通えておらず、不就学の子どもは約320万人にのぼります。そのうち約160万人は避難生活が長期化する中で、学びの機会も長く失ったままとなっています。日々の暮らしにも事欠く家庭にとって、学用品費や通学費を捻出することは容易ではなく、教育は後回しにされる傾向にあります。
さらに、約78万人の5歳児が就学前教育を受けられていません。過密な教室、教材や学習資材の不足、教師への給与不払いなどが重なり、職を離れる教師も後を絶ちません。2024年10月から11月に国連機関やNGOが連携して実施した、イエメンにおいて緊急人道支援を実施するための調査では、22県中18県(85%)で教育が最優先課題と位置づけられました(注1)。
イエメンでは、「教育を受ける権利(子どもの権利条約第28条)」「戦争からの保護(同38条)」「あらゆる搾取からの保護(同36条)」といった、子どもにとって当然であるはずの権利が著しく侵害されています。UNICEFは「イエメンは、子どもにとって世界で最悪な場所の一つ」と警鐘を鳴らし、責任を負う立場にある人々が、子どもたちへの責務を果たしていないと指摘しています(注2)。
教育機会のジェンダーギャップと社会背景
こうした教育危機の中でも、特に厳しい状況に置かれているのが女性です。イエメンは、基礎教育へのアクセスにおける男女格差が、世界でも特に大きい国の一つとされています。UNICEFの報告によれば、初等教育の純就学率は男子79%に対し女性は66%、成人識字率も男性76%に対して女性は39%にとどまっています(注3)。
背景には、長引く紛争による治安悪化や貧困ばかりでなく、保守的な伝統慣習の複合的な要因があります。イエメンでは女子の32%が18歳未満で結婚し、9%は15歳未満で結婚しています。厳しい生活の中で、結婚は「家計の負担を減らす手段」や「娘を守るための現実的な選択肢」と捉えられることもあります。また、地方では「女性は家にいて家事を担うべきだ」という考えが今も残り、女性が学び続けることや外に出ること自体が制限される場面も少なくありません(注4)。
私が出張中に出会った一人の20歳の女性は、こう話してくれました。「イエメンでは、女性だけで出かけられる場所が限られています。どこにでも自由に行けるあなたが羨ましい。日本でも、どこでもいいから、イエメンを出て外の世界を見てみたい」。その言葉から、女性であるというだけで行動や選択が制限される日常が、当たり前なこととして存在している現実を突きつけられました。
教育を受ける機会の格差は、単に学校に通えるかどうかにとどまりません。自由に移動すること、夢を描くこと、自分の将来を選ぶこと―そんな当たり前のことがイエメンでは女性であるという理由だけで制限されているのです。
JVCの活動と、教室から聞こえる声
こうした現状の中、JVCは現地パートナー団体と連携し、教育環境の改善に取り組んでいます。2025年度にはタイズ県ムダッファル地区のアーイシャ女子小中学校で、教室の増築事業を実施しました(写真1)。
タイズ県は前線に近く、暫定政権支配地域の中では最も多くの学校被害が確認され、2017年の時点で、少なくとも5%の教育施設が破壊、53%が損傷したと報告されています。アーイシャ女子小中学校には避難民の流入もあり2,547人の生徒が通い、1教室で100人以上が授業を受けるという過密状態が続いていました(写真2)。そのような状況から2部制を採用せざるを得ず、午後の授業の帰路では夜道を歩く危険も伴っています。3教室増築したことで、午後に通う生徒が午前の部に移動しました。また、教室には机と椅子、ホワイトボード、天井扇風機も設置し、現在175人の生徒が環境の整った新しい教室で授業を受けています(写真3)。
写真2:過密状態の教室。机が足りなく、床に座る生徒もいる(2025年11月)
写真3:新しい教室で授業を受ける生徒たち(2025年11月)
教師は、紛争下におかれた生徒たちの状況をこう語ります。「教員会議で最も多く話題に上がるのは、生徒の勉強への意欲の低さです。『イエメンは戦争中だから将来に希望がない』『他国の歴史を学んでも、この国に平和は来ない』『勉強しても仕事がない』という声が、生徒たちから聞こえてきます」。その現実は、あまりにも重く、悲しいものでした。教師たちはその背景を理解したうえで、生徒を励まし続けていますが、その苦労は計り知れません。
一方で、学び続けようとする生徒の声もあります。「女子は勉強する必要はないと言われる」「本当は歌手やアーティストになりたいけれど、現実的ではないから薬剤師を目指せと言われる」。女性が置かれた立場を理解しながらも、それでも学校に通い続けたいという強い意志が、確かに感じられました。
「女性だから」「戦争中だから」という理不尽な理由で、教育の機会が奪われてよいはずがありません。教育は人々の尊厳を守り、社会の未来を支える力です。国際社会は、将来を担う子どもたちが武器を手にとることがないように、教育に目を向けるべきではないでしょうか。JVCはこれからも、イエメンで起こっていることを「忘れられた戦争」としないため、人々に寄り添う支援を続けていきます。
注釈・出典
筆者プロフィール
スーダン・イエメン事業担当 後藤 美紀(ごとう みき)
東京都出身。小学生の頃にマザーテレサの伝記を読み、世界中に飢餓や紛争で苦しんでいる人々がいることを知り衝撃を受ける。「世界の問題と苦しんでいる人を無視しない人になりたい」と思い、国際協力に関心をもつ。大学卒業後は一般企業と在日イエメン共和国大使館で勤務しながらJVCの英語ボランティアに参加する。同時期、旅行でパレスチナを訪れた際、現地で実際に起きている現状を目の当たりにし、自分の無力さと問題の複雑さを痛感。問題から目をそらさず長く向き合い、主体的に支援活動に携わりたいという思いが強くなり、2022年5月、JVCに入職。
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