
国際人権とNGO/市民社会 ~土地規制法と日本の軍事化・後編~(会報誌T&Eより)
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本連載は、国際人権の確立のために活動する専門家などに、それぞれが取り組む問題について寄稿していただき、私たち市民社会の取り組むべき問題に対する視野を広げ、議論を深め、連帯を強化し、さらなる人権の実践の向上に資する視点を提示することを目指します。
以下は、国防のためという理由で市民の自由と人権を侵害する危険性があり、自由権規約違反が疑われる土地規制法について、同法の廃止アクションの先頭に立つ谷山博史さんにご寄稿いただいた記事の後編です。(編集部)
この記事の前編はこちらから(リンクを挿入)
| 本記事は、2026年1月20日に発行されたJVC会報誌「Trial & Error」No.361に掲載された記事です。会報誌はPDFでも公開されています。ぜひご覧ください。 ●JVC会報誌「Trial & Error」No.361のPDFはこちら |
紙幅に制限があるのでここでは問題点を箇条書きし、若干の説明を加えることにします。
●何が罪になるか分からない
法は刑罰を構成する要件である「(特定)重要施設」、「(特定)重要施設の施設機能・国境離島の離島機能」、「機能阻害行為」の定義が曖昧で拡大解釈が可能になります(第5条)。また何が「重要施設の機能」なのかが分からないため、何が「機能阻害行為」になるかも分かりません。基地反対運動がターゲットにされる可能性が高いのです。
●調査の対象者・内容・方法が曖昧で拡大解釈が可能
・「機能阻害行為」の調査に関して、調査の対象と「報告の徴収」の対象に「その他関係者」が含まれていますが、それが誰を指すが曖昧で、限りなく調査と報告徴収の対象が広がる恐れがあります。また「その他関係者への報告の徴収」は密告の義務付けに他なりません。
・調査によって政府が取得する情報も明らかではなく、思想・信条の調査も可能です(第6,7,8条)。
●調査・監視に自治体と住民を動員
法では自治体からの情報収集とその他の協力が規定されています。これは自治体への、上記と同様に密告の奨励ないし義務づけの意味合いをもちます(第7条)。
●加重な刑罰
「重要施設」「国境離島」に対する「機能阻害行為」(その恐れも含む)の中止命令に違反すれば2年以下の懲役・200万円以下の罰金が科されます(第25条)。また特別注視区域に指定されると不動産取引の事前報告が義務づけられ、違反した者には6カ月以下の懲役又は100万円以下の罰金が科されます(第26条)。さらに土地建物の所有者・利用者及び「その他関係者」に課された報告・資料提出義務に違反した場合、30万円以下の罰金が科されます(第27条)。
●基地など重要施設周辺の土地・建物の事実上の収用(撤去)が可能となる
「機能阻害行為」を働いたかまたはその恐れがあるとみなされると、「行為中止勧告・命令」がなされます。この時点で機能阻害行為を行った土地・建物を政府に買い取らせる申し出をすれば処罰は免れます(法11条)。これは処罰と引き換えの、事実上の土地収用です。またこれとは別に「国が適切な管理を行う必要があると認められる」土地・建物については、政府が買い取ることができます(法23条)
土地規制法には戦前・戦中に軍事機密を守るために作られた要塞地帯法や軍事機密保護法、スパイ対策のために導入された隣組と通じるものがあります。そのことを踏まえると日本の軍事化の一里塚だとも言えます。こうした戦前回帰とも言える流れを私たちは止めることができるでしょうか。軍事化の最前線にある沖縄で「ノーモア沖縄戦の会」の共同代表をしている具志堅高松さんは言います。「戦前・戦中は声を上げることもできなかった。しかし私たちはまだ声を上げることができます」。
そうです、市民はノーの声を上げることができます。ノーの声を形にするために廃止アクション事務局は、2021年5月24日法案に対する緊急抗議声明を作成し、全国300余りの団体の賛同を集めました。中にはこの法律に危機感をもって市民二人、三人で立ち上げた団体もあります。法案審議の段階でこの300団体と協力して参議院で公聴会を開かせたり、野党の立憲民主党が法案に賛成しないよう働きかけるなどしてきました。法案の可決が通常国会会期末の日の未明午前2時まで引き延ばされたのはそのためでした。あと一歩で廃案になるところまで来ていました。また法の成立後は記者会見や抗議集会を重ね、所轄庁である内閣府との交渉は8回に及びました。こうした廃止アクション事務局の活動は全国300余りの賛同団体のバックアップがあってできた活動です。
廃止アクション事務局の活動と連動する形で沖縄では「土地規制法を廃止を求める県民有志の会」や土地規制法対策沖縄弁護団ができました。沖縄弁護団はこの法律によって市民運動が萎縮しないよう、勧告や命令を受けた市民を救援することをミッションとして掲げています。また弁護団と自治体議員が連携して自治体議会の場でも法の廃止を求める活動を行っています。こうした市民と市民団体、自治体議員の監視もあって、この法律に基づいた勧告・命令・処罰の執行例はまだ1件もありません。
市民一人でも声を上げることができます。周りの人と団体を立ち上げることもできます。そして他の市民団体と連携してキャラバンを組み、声を大きくすることもできます。政府の行為を監視し、時にストップをかけるのはいつでも市民一人一人の声なのです。
ここまで読んでくれた方の中には、では国の防衛はどうするのかという疑問を抱く方がいるかもしれません。最後に付け加えるとすれば、防衛の名のもとに人権侵害がまかり通らないようにする仕組みがないことが問題です。同時になりふり構わぬ軍事化の前に、外交による問題解決が何よりも必要なのです。
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谷山博史(たにやま ひろし)
JVC元代表・現顧問、土地規制法廃止アクション事務局
土地規制法対策沖縄弁護団事務局次長