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パレスチナ

ガザ:二つの一方的停戦

1月17日夜、イスラエル政府は今朝2時から「一方的停戦」を開始することを発表しました。停戦といっても、いつどのようにイスラエル軍が撤退するのか、また、ガザの封鎖が緩和されるのか、などを一方的に決めるというものです。また、ガザからロケットが発射されたなら報復する、としています。

今朝10時過ぎごろ、JVCがガザで幼稚園児に牛乳とビスケットの配布するプロジェクトのマナージャーで友人のモナの自宅に電話をしました。電話に出てきたお母さんの声は、明るく、「今朝は久しぶりに静かよ。このまま続いてくれれば良いのだけど。」と言い、「モナは事務所に出かけたわよ。」と教えてくれました。「ワカコ、しばらく会ってないわね。会いたいわ。今度いつ来るの?」と聞いてくれます。「もうすぐよ」と答えて電話を切りました。

事務所にいるモナに電話をしました。「今日は試験的に事務所に集まったの。1時間だけ、皆の状況を話しあうのよ。停戦と言っても信用できないからね。ほら、爆撃の音がまだしているでしょ」実際、TVのニュースは、イスラエルの一方的停戦後にもガザからロケットが発射され、イスラエル軍が空爆を落としている様子を写していた。そして彼女は、「私たち、あまりプライベートには触れないことにしているの。だって、私たちの多くは知り合いや親戚が亡くなったり、怪我して足を切断したりしているでしょ。話すと辛くなるから」と言った。つい先日も、彼女から娘の友人のお母さんが、足を撃たれて病院に行き、その場で足を切断された話を聞いた。「ガザの病院は、医師も手術のための器材も薬もベッドも全てが不足しているの。だから通常なら縫製手術で済む人も、すぐ手足を切断されてしまうのよ。そうすれば命は助けられるから」その話を聞いたときはやりきれない気持ちになった。助かるはずの手足を失わなければならない人たち。彼女たちは一生心にも重い傷を背負っていくのです。

ハンユニスの栄養センターの代表をしているハナンにも電話をしてみました。彼女はラファの自宅にイスラエル軍から退去命令が出て、ハンユニスのお兄さんの家に避難していました。彼女は「今日は少し静かだから、これからラファの家の様子を見に行くの。ガラスは皆割れてしまったけど、家は残っているはずだから、住めるかどうか確認してくるわ。」でも、エジプトとの境界のラファは、最も爆撃が厳しかったところ。「大丈夫なの?まだ危険じゃないの?」と聞いてみたものの、「いつまでもお兄さんのところにはいれないし、早く我が家に帰りたいのよ。家族だけで暮らしたいの」という答えが帰ってきました。「ワカコはいつガザに来るの?」「もうすぐよ。もうすぐ会えるわ」と言って電話を切りました。

数日前には、「もう限界」と涙声になり、「死んだ夢を見るの」とまで語っていた二人だが、早くも前向きに仕事に普通の生活に戻るべく、動き始めています。パレスチナの人たちの、特に女性たちのこの前向きさと切り替えの早さには、いつも驚かされます。そして、いまだに落ち込んでいる自分が情けなくなる瞬間でもあります。

そして昼過ぎにはハマスも「一方的停戦」を発表したとのニュースが入ってきました。イスラエル軍がガザから撤退する時間として1週間攻撃停止をするとのことです。1週間の間にイスラエル軍が撤退できれば、停戦は持続できるかもしれません。ほどなくして、イスラエルとガザとの唯一の人が通れるエレツ検問所が開いたという情報も入ってきました。外国人ジャーナリストが10人ほど入ったとのこと。国際NGOスタッフもどうやら許可が降りそうとの情報も入ってきました。ただ、検問所を抜けてからガザ市までの道のりが北部でもっとも攻撃が激しかったところで、治安確保が確認されるまでは、もう少し時間がかかりそうです。

先行きが危ぶまれる二つの一方的停戦。パレスチナ側は他の政党の足並みが揃わないなどの問題があるものの、何とかイスラエル軍には一週間以内に撤退してもらうことで持続して欲しい。そして、1日も早く、ガザの人々が待ち望んでいる、人道物資はもちろん、壊れた家や病院や学校の修理や、子供たちの栄養が充分に行き届くようになってくれることを願うばかりです。

執筆者

小林 和香子(パレスチナ現地代表)

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