レポート:スーダンの邦人退避についての話し合い
4月15日にJVCの活動地でもあるスーダンで大規模な武力衝突が発生し、JVCのスタッフを含む多くの邦人が退避しました。
今回JVCスタッフは、最終的には国連機に搭乗して退避をしましたが、多くの邦人が自衛隊機によって退避することとなりました。
スーダンからの邦人退避における自衛隊の海外派遣について、日本の報道では自衛隊機によって無事退避できたと評価する報道が多く、自衛隊の海外派遣の拡大/強化を支持する声が上がっています。
しかし、そもそも自衛隊の海外派遣強化とジブチの拠点拡大をどう考えるのか、自衛隊の邦人輸送が政治利用されているのではないか等の側面は、報道で見ることは多くありません。
JVCは、自衛隊の海外派遣と海外拠点の強化に反対し、邦人退避の機会がそれらを正当化するために利用されてはいけないと考えています。
他方で、人命を無事救出することの必要性はもちろんあり、この件についてどのように捉えるべきなのか、団体内でも意見交換をしたいという機運があり、朝ミーティングで意見交換の時間をとりました。
今回は、広報担当インターンとして活動に携わる杉浦が、自分自身の感想も交えてレポートをお届けします。
*この問題について、JVCが発出した声明はこちらです。
自衛隊の海外派遣に反対します ―邦人保護は自衛隊でなければできなかったのか?
https://www.ngo-jvc.net/activity/advocacy/20230626_sdf.html
今回の意見交換は団体として緊急退避についての方針を決めることが目的ではなく、またどういう場合でも状況に応じて判断するという側面があることは理解した上での議論だったということです。
その上で、他の活動地でも同様に退避しなければならない事態にさらされる可能性があることも踏まえ、今回の一連の動きからどのような教訓を得、何を大切に発信していくべきかを捉えなおすための意見交換という形で実施しました。
議論のポイントは以下3点です。
①人命が何よりも大切。
②そもそも避難手段が1つしかない事が問題である。
③報道の仕方が偏り過ぎている
はじめに、JVCは自衛隊の海外派遣と海外拠点の強化には反対します。
自衛隊は軍であり、軍隊が他国に入ることは、相手国の主権の侵害になります。
国家間の条約や協定に基づく駐留であっても、軍による住民の権利侵害が現地の国内法で裁けないなど、相手国の主権が侵害されます。
日本の自衛隊による軍事駐留は相手国や他国からどのように受け止められるのかについてしっかり認識をするべきであり、現地の目線に立って考えれば、日本が「加害者」になり得るのです。
しかし、こういった流れに反対することと、身の危険が高まっている緊急時に退避手段として自衛隊機に乗るかどうかは、分けて考えてよいのではないか、との意見がありました。議論に参加したスタッフのほとんどが、仮に自身が当事者でほかに手段がない場合、自衛隊機に乗り安全をまず確保すると述べました。
一方で、安全に且つ確実に避難することが重要であり、必ずしもその手段が自衛隊機によるものでなくてもいいのです。
今回の首都ハルツームからの邦人退避では、陸路を使い700km退避しましたが、もしJVC駐在員がハルツームに残っていたらどのように対応をしただろうかが議論になりました。700km移動のリスクを冷静に分析し、比較考慮する必要があったのではないか、という意見に対し、、既に兵士がハルツームで家屋内に侵入してきている状況を考慮すると、ハルツームに残るという選択は、あり得なかったという意見がありました。
しかし、最も困難だった陸路移動は、日本政府が派遣した自衛隊によるものではなく、国連が主導した車列(コンボイ)でした。
その先の避難手段も国連機や各国の救援機、民間のチャーター船等があったことを考えると、必ずしも自衛隊機しか避難の手段が無かったわけではありません。
自衛隊による救出は、1つの手段だけであり絶対的に必要な事ではありません。
そもそも、民間航空機を派遣する等の他の手段が考慮されなかったことが問題ではないのかという意見がありました。
(スーダン南部から国連機で退避する様子)
また、メディアの報道に対しては、自衛隊を評価する雰囲気が少なくなく、「現地で活躍する人たちが安全に活動できるために自衛隊をもっと派遣しないといけない」というコメンテーターの発言に対して、あまりに安直すぎるという意見が出ました。
番組内に自衛隊に対する専門家はいても、スーダンの専門家はいなかったのでそうなってしまうのではないか、議論が浅いのではないか、という意見がありました。
しかし、メディアは、メディアでの理論があり1つの仕事であるから、報道内容をどのように捉えるのか、という姿勢が大切になってくるという考えもありました。
また、外務副大臣が現地に出向いていたことに対して違和感を覚え、パフォーマンスなのではないか、という感じさえするという意見もありました。
JVCとしては、自衛隊の海外派遣と海外拠点の強化に反対し、邦人退避の機会がそれらを正当化するために利用されてはいけないと考えます。
自衛隊を派遣しなければ邦人の救援ができないわけではなく、安全かつ迅速に退避するために、他国との協力や民間のチャーター機の利用などを考えるべきです。
日々、報道で目にするものはある種偏った意見が多く、それらを報道する人たちも実際に現場で退避を経験してきた人たちばかりではありません。したがって、批判的な意見よりも肯定的な意見を持つ方々ばかりのように感じます。
今回は、実際に現場で働き退避を経験した方々からの意見をお聞きし、私自身も意見が偏っていたこと、そして現場で起こっている状況を知り、あらゆる側面から物事を捉える事の大切さを痛感しました。
今回の議論の中で出た「日本の自衛隊による軍事駐留は相手国や他国からどのように受け止められるのかについての認識が欠けている」という意見に対して、私も含めその通りではないかと感じる所がありました。
邦人の保護は大切です。
しかし、それを理由に他国の意見や尊厳を無視していいとは、ならないはずです。日本の国際関係における強みは、平和主義であり中立であると思います。この姿勢から得られる信頼関係や恩恵は大きいはずです。
国際関係における日本の立ち位置をも考慮した議論が進んでほしいと感じました。
世界はあなたの小さな一歩から大きく変わります。
私たちが世界をより良くする活動は、
皆さまのご寄付・ご支援に支えられています。
日本国際ボランティアセンターでは
マンスリーサポーターや物品寄付をはじめとする様々なご支援を受け付けています。
良い世界の実現のために私たちの活動を応援してください。
JVCのことをまだ知らない、あまり知らない方はまずはこちらをご覧ください。