
【乾季の菜園づくり】 ラシャシャを探せ
VC事務所からほんの5分も歩けば、そこはカドグリの「スーク」です。スークとは、アラビア語で「市場」。でも、それは市場というコトバから連想される露天商が集まる場所だけでなく、衣料品街、電気街、食堂街、それらを含む商業地区全体がスークと呼ばれています。
スークに足を踏み入れたJVCスタッフのタイーブは、乗り合いバスが客の呼び込みをしている一角を過ぎ、建築資材が山積みになった店を左に眺め、やがてガンガンと音楽が鳴り響く一帯に出ました。テレビや携帯電話の修理屋が軒を連ねる電気街です。そこも通り過ぎ、その先の衣料品街もやり過ごすと、ようやく目的のエリアです。
あちこちの店先で、金物職人が廃品のブリキ缶や針金から小型の湯沸し鍋、コーヒー用に注ぎ口が付いたポット、香木を焚くための台座などを作っています。
「このあたりだな」
タイーブは、ブリキの鍋が並んだ店に入って尋ねてみました。
「このへんに、ラシャシャを作っている人はいませんか?」
ラシャシャとは、如雨露(じょうろ)のこと。コトバの響きがいいので、今回の「現地便り」でもラシャシャと呼ぶことにさせていただきます。
いまJVCが進めている乾季の菜園活動では、主に手押しポンプ型井戸の水を使って灌漑を行っています。井戸でポリタンクに汲んだ水を手押し車で菜園に運び、ザバーッと流す。いや、ザバーッと流したら水が無駄になってしまいます。ではどうやったら節水しつつ効果的に作物に水やりができるのか...それにはラシャシャがイチバン!農業専門家のカッチョさんからそのようなアドバイスを受けて、私たちは菜園づくりの参加者にラシャシャを支援することを決めました。
しかし、まずはラシャシャを調達しないことには話になりません。ラシャシャは、カドグリの周辺ではあまり普及しておらず、見かけることも多くありません。入手することができるでしょうか。
「ラシャシャなら、あそこで作ってるんじゃないか?」
店番をしている男性が指差して教えてくれました。通りを少しばかり奥に入ったところです。
「ありがとう」
教えてもらった場所に行くと、そこは店というよりも作業場そのものです。若い職人さんが、木槌をふるってブリキの成型をしています。作っているのは...あれ、ラシャシャではありませんか。
「こんにちは。ラシャシャが欲しいんだけど」
「うん?これかい?」
職人の名前はマンスールさん。作業を中断してラシャシャを見せてくれました。
タイーブは手に取って、しげしげと眺めています。
「へえ...これって、どうやって作るんだい?」
「ほら、そこに材料があるだろ」
足元に材料が転がっていました。
「なんだ、これ、アメリカから来た油の缶じゃないか」


できあがり
それは、星条旗とUSAID(アメリカ合衆国国際開発庁)のロゴが入った、避難民への食料援助で配布されている食用油の缶です。4リットル入りですから、なかなか大きなものです。
「へえ、こんなところで役立つものなんだな」
この缶に、細かな穴をたくさん開けた注ぎ口をつけ、把手をつければ完成です。
「そうだ、写真、撮っていいかな」
カメラを向けると、マンスールさんは穴が開いた注ぎ口をこちらに向けてくれました。

マンスールさん
「このラシャシャ、とてもいいと思うんだけど、100個って作れるかい?」 「えっ、何個だって?」
「100個」
「...100個って言ったか?」
「そうだ。100個だ」
「そんな注文、今まで受けたことないぞ」
「ハハハ...そうだよな。今、あちこちで野菜作りをやっていて、そこで必要なんだ」
1週間後。
100個のラシャシャを受け取りにタイーブがマンスールさんを訪れると、作業場には姿がありません。
「マンスールなら、ここのところ家で作業してるみたいだぞ。ラシャシャの注文がごっそり入ったって言ってたな」
隣の作業場の人が教えてくれました。
家の場所を教えてもらい、早速そちらに向かいます。
「すまないな。もう少し待ってくれないか?」
家の中から出てきたマンスールさんは、開口一番にそう言いました。
「なんだ、もう1週間たったぞ。何個できたんだ?」
「いや、それが...作業は順調なんだぜ。でも、まだ材料の缶が100個集まってないんだ」
やっぱりそうか...という感じです。廃品回収業者から缶を仕入れているようですが、業者も集めきれないのでしょう。
「あと2日だけ、待ってくれよ」

菜園での配布
結局、それから4日も待たされてやっと100個が完成しました。
さっそく、各地区に出向いて配布です。菜園に入ると、野菜の葉が勢いよく伸びていました。
「皆さん、ラシャシャが来ました」
畑仕事をしている人たちに説明しながら、2、3家族に1個の割合で配布をしていきます。

3月に実施した研修で、ラシャシャでの水やりを実演する専門家カッチョさん
「ハハハ。ラシャシャ、いいねえ」
手に取った農家の主婦は、子供のように喜んでいます。
多くの人にとって、ラシャシャという道具は知っていたものの、実際に使うのはこれが初めてなのでしょう。
「みんながあちこちでラシャシャを使い始めたら、マンスールは商売繁盛だな」
そんな妄想を膨らませながら、ひと仕事終えたタイーブは帰路につくのでした。
【おことわり】
JVCは、スーダンの首都ハルツームから南に約700キロ離れた南コルドファン州カドグリ市周辺にて事業を実施しています。紛争により州内の治安状況が不安定なため、JVC現地代表の今井は首都に駐在し、カドグリではスーダン人スタッフが日常の事業運営にあたっています。このため、2012年1月以降の「現地便り」は、カドグリの状況や活動の様子を、現地スタッフの報告に基づいて今井が執筆したものです。