REPORT

スーダン

【避難民向け住居への給水活動】 消えたおカネ

「工事が終わったから、確認にきてくれないか」

ウォーターヤードの施工業者からJVCスタッフに電話が入ったのは11月上旬。いつもの赤いクルマを飛ばして駆けつけると、建設現場には既に井戸管理委員会のメンバーも集まっていました。

給水塔や共同水栓の工事は10月に完了しているので、今回残っていたのは周囲のフェンス、発電機用の機械室、それに家畜給水所の設置でした。

「工事のでき具合はどうですかね」
アドランが委員会のリーダー、ブシャラさんに話しかけると、ちょうど家畜給水所の水栓をひねって水の出を確かめているところでした。

フェンス設置が終了、完成したウォーターヤード

「これはいいよ、上出来だ」
勢いよく流れ出る水に、うれしそうです。

発電機を据えつけた機械室

フェンスの外側に設置された家畜用給水所。家畜はフェンス内には入れない

委員会メンバーと一緒に設備をひと通り確認してから、工事完了書にサイン。これでウォーターヤードは完成です。

「お祝いをしなくちゃいかん」
みな、口々にそう言い始めました。

「いつ、このウォーターヤードを住民に引き渡してもらえるのかな?」
ブシャラさんがアドランに尋ねてきました。

「そうですね、引き渡しの時には、州政府や水公社などの関係者に集まってもらって簡単な式典をしないといけませんね。その準備に少し時間がかかりますから、来週にしましょうか」
「ヨーシ、その時には、ヒツジを絞めて、生き血をかけて祝うんだ」
ちょっと興奮したアフマドさんが横から口を挟んできました。

「そうしておかないと、ウォーターヤードの将来に何か悪いことが起きるからな」
「そうだ、そうだ」
確かに、新しく家を建てた時なども、玄関に家畜の生き血をかけるのが習わしです。
ヒツジの話でみんなが盛り上がったところで、アドランは別の質問をしてみました。

「ところで、以前の会合で話し合ったように、皆さんにウォーターヤードを引き渡した後、ポンプを動かすための燃料代が必要ですよね。住民から少しずつ集めるということでしたが、順調に集まっていますか?」
「おカネはズベルが管理している。ズベル、今いくらくらい集まったのかな?」

ブシャラさんは、後ろに立っていたズベルさんを振り向きました。
「えっ、だって、この前の『歓迎会』で、全部使っちゃったよ」
「なに?」
「だって、集めたおカネを使っていいって、ウムダ(住民リーダー)が言ってたじゃないか」
青くなったのはアドランです。
「あ、集めたおカネを全部使っちゃったんですか?」

ズベルさんによれば、次のような話です。
ウォーターヤードの建設が進むあいだ、その運営資金のために、ウムダが呼び掛けて井戸管理委員会が住民からおカネを集めました。ウムダが率先して支払ったこともあり、800スーダンポンドが集まっていました。

そんな折り、10月下旬にブラム郡のコミッショナー(行政の長)が避難民向け住居を訪問することになりました。ここに居住する避難民の大半がブラム郡の出身です。コミッショナーは、戦闘地域であるブラム郡には駐在できないため、カドグリ市内で執務をしながらブラム郡出身者の面倒を見ています。

コミッショナーの訪問を受けることは、住民にとって一大事。ウムダは「よし、集めたカネを使って歓迎会だ」と号令をかけ、800スーダンポンドは一瞬のうちに消えて行ったそうです。

事務所に戻ったアドランは、すぐJVCハルツーム事務所にこのことを電話で伝え、どうしたらよいか話し合いました。結論は、井戸管理委員会におカネの管理ができないのであれば、ウォーターヤードの運営を任せるわけにはいかない、ということです。

アドランはすぐに避難民向け住居に引き返して、もう一度ブシャラさんに会いました。
「申し訳ないのですが、来週に引き渡し式をすることはできません」
そう言って、以前の会合で話し合った通り、委員会が住民から少額のおカネをきちんと集め、銀行口座を開いて管理し、施設の運営資金として準備することができないのであれば、ウォーターヤードは住民にではなく水公社に引き渡すことになる、と説明しました。

「アドラン、ちょっ、ちょっと待ってくれ」
ブシャラさんは、あわてて言いました。
「集めたおカネを歓迎会に使ってしまったのは間違いだった。もうあんなことはしない。すぐに住民集会を開いて、もう一度ちゃんとおカネを集める。銀行口座も作る」
いつになく真剣な表情です。
「だから、少しだけ待ってくれないか」

(つづく)

【おことわり】
現在、JVC現地代表の今井をはじめNGO外国人スタッフが南コルドファン州に入ることは、スーダン政府により制限されています。このため、2012年1月以降の「現地便り」はカドグリの状況や活動の様子を、JVCスーダン人スタッフの報告に基づき今井(首都ハルツームに駐在)が執筆したものです。

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