REPORT

パレスチナ

パレスチナのデモ隊が石を投げなければならない理由

2015年4月24日金曜日、私はパレスチナ自治区・ヨルダン川西岸の中程にある、「ナビー・サーレフ(An Nabi Salih)」という小さな村にいました。
人口はたったの500人。ガソリンスタンドと小さなスーパーマーケット、あとはのどかな景色の中に民家が立ち並ぶだけのこの村を訪ねたのは初めてです。目的は、毎週金曜日に行われるデモを見ることでした。

ナビー・サーレフ村の様子

村の入り口にはイスラエル軍の監視塔があり、隣には近代的に整備されたイスラエルの入植地が広がっています。ここが本来、国際的にはパレスチナ人の土地とされているにも関わらず、です。
ナビー・サーレフの人々は、そんなイスラエルのやり方に抗議すべく、毎週金曜日の午後に集まってデモを行っています。

デモは、お昼の礼拝が終わったあとに始まります。村人たちや外国人の支援者たちが集まり、村の入り口の方へと行進していきます。入り口の監視塔の下には、イスラエルの兵士たちが催涙ガス弾や音響弾、ゴム弾を装備して待ち構えています。
人々は口々に「イスラエル軍こそがテロリスト、村から出て行け!」「占領に抵抗しよう、みんな!」と叫びながら行進します。行進隊は兵士たちとの間に一定の距離をあけて止まり、一部の若者たちが石を掴んで、投石用の紐を使ってイスラエル兵へ投げつけ始めました。

村のすぐ隣に見える、オレンジ屋根の入植地

デモの様子

一人、二人と増えていく、投石する若者たち。
気づけば村のはずれの方でも、石を投げる若者たちとイスラエル兵士たちが対峙していました。

催涙ガス弾で応戦するイスラエル兵たち。ガスを避けながら更に石を投げる、パレスチナの若者たち。その姿を安全な場所から見ていただけの私でしたが、ある疑問が胸に湧いてきました。

「どうしてこの若者たちは、石を投げるのだろう。確かに兵士との力の差は明白だけれど、石を投げなければ、応戦の口実を与えなくて済むのに」

実際、JVCが支援している救急チームの若者たちは、デモの間に決して石を投げたりはしないといいます。それは「非暴力の抵抗」に徹底しているからであり、活動やメンバー、けが人を守るためでもあります。
それなのに、ここナビー・サーレフで、若者たちは危険を冒しても石を投げるのです。何故なのだろう、と思いました。

その疑問を案内役の男の子にぶつけてみたところ、返ってきた言葉が印象的でした。

デモで使用された催涙ガス弾の残骸

「誰かが石を投げれば、イスラエルの兵士が応戦してきて、誰かが血を流す。その様子がニュースに流れて初めて、世界がナビー・サーレフのことを知るんです。犠牲がなければ、誰もこの村が困っていることを知ってはくれない」

デモが終わり、エルサレムの静かなホテルに戻って、その言葉を噛みしめながら日本の金曜日のことを考えました。
この村でデモが始まり、誰かが血を流す頃、6時間の時差がある日本は金曜日の夜を迎えています。仕事帰りに街に繰り出してお酒を楽しむ人たちもいれば、賑やかな繁華街で楽しく騒いでいる人たちもいる時間帯です。私自身も、たまには同僚と飲みに行きます。
まさにその瞬間、1万キロ離れたところで誰かが血を流すことも厭わずに行進し、権利と自由を訴えているなんて、誰も想像すらしないでしょう。通勤時間に皆が見ている、人気アプリを通じてスマートフォンに流れてくるニュースには、ナビー・サーレフのデモの話は出て来ないはずです。出てくるのはもっと注目を集めやすい暴力的な事件か、芸能人のニュースか、「まとめ」サイトで話題の記事です。

自分たちだけではどうしようもない人権侵害に晒されているからこそ、パレスチナの人々は海外の人々の目を引くことに文字通り必死です。
パレスチナでの暮らしには、いつも必ず「占領」が暗い影を落としています。例えば若者が夢を描き、頑張って大学院まで出ても、分離壁に囲まれた街には仕事がなく、タクシー運転手やウエイターくらいしか職業の選択肢がない現実。明日、家族で長年暮らした家が取り壊され、先祖代々の農地を奪われるかもしれない不安。いま、この人生を人間らしく生き生きと送るには、彼らの置かれた環境はあまりに過酷です。
「占領」というイスラエルの政策を変えて未来を拓くため、現地の人たちは自ら、あらゆる方法で声を上げてきました。それでも、パレスチナ問題は70年近く、解決されないままです。

デモの間、若者たちに石を掴ませているのは、「安全なところから見ているだけ」の私、目に入るものしか見ようとしない誰かの無関心かもしれない。
そう思った、金曜日の夜でした。

筆者が視察したデモの、ジャーナリストによる報告動画

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