「非軍事原則」の破棄がもたらすもの(JVC会報誌 No.353より)

本記事は、2023年4月20日に発行されたJVC会報誌「Trial & Error」No.353に掲載された記事です。会報誌はPDFでも公開されています。こちらより、ぜひご覧ください。

「非軍事原則」の破棄がもたらすもの

「国際協力」の名のもとに日本は他国への武器援助を始めようとしている。前号の巻頭特集 (1) でも触れた、安保3文書の「国家安全保障戦略」に記載された「ODAとは別」の新たな支援枠組みである。対外援助の「非軍事原則」を放棄し、日本という国の形を変質させるこの動きは、政府と市民社会との協議のあり方にも影響を及ぼしている。

日本が「武器を援助する国」に?

「院内集会で冒頭スピーチを行う今井。

会場には国会議員5名、一般参加者40名、マスコミ8社が集まった。

外務省は、2023年度予算案に新しい支援の枠組み「安全保障能力強化支援」を盛り込み20億円を計上した。途上国の軍を対象に、軍事用の装備品やインフラ設備を無償で供与するものだ。報道によれば、初年度に仕組みを整えたのち規模が拡大されていく。

これまでODAを中心とする日本の開発協力は、平和主義に基づく「非軍事原則」を守って行われてきた。開発協力の指針を定めた政府の「開発協力大綱」にもそれは 明記されている。それだけに、今回の「軍事援助」は驚きだった。原則を破棄する大 転換ではないか。

しかし「敵基地攻撃能力」や「防衛費倍増」に比べて、この「安全保障能力強化支援」 への注目度は低く、マスコミの反応も鈍い。 

国会議論で取り上げてもらえないかと、JVCと武器取引反対ネットワーク、ピースボートの呼び掛けで、2月2日に参議院議員会館で院内集会を開催した。国会議員 のほか、外務省にも参加を要請して意見交換を行い、東京新聞で詳しく報じられた(注 2)。

私たちの質問に対して、外務省は「この新しい支援はODAではないので、非軍事原則は適用されない」との回答を何度も繰り返した。

しかし、日本が「あちらはODAです」「こちらは非ODAです」 といったところで、相手国から見れば「日本からの援助」であることに変わりはない。それが ODAであろうがなかろうが、日本は「武器を援助する国」になる。

「普通の国」になって失うもの

日本の武器輸出は2014年に解禁されたが、当時から政府内では武器の「援助」も検討されていたらしい。しかし外務省 は「非軍事原則があるので無理」との立場を示したようだ。 そのため防衛省サイドで制度化が検討されたものの実現はしなかった。

その外務省が、今回は堂々と「別枠」を 作って軍事援助を始める。 ある外務省職員は私との立ち話で「(軍事援助の) どこが問題なんですか? 欧米はどこの国もやっ てますよ」と話していた。まさに2012 年の第2次安倍政権以来の、日本を「普通の国」にする流れである。 しかし振り返れば、日本は平和憲法のもと武力行使を避ける「普通ではない国」であることによって、 国際社会での評価や信頼を得てきたのである。イラクやアフガニスタンで直接の軍事介入や武器援助を行わなかったからこそ、 日本のNGOは現地で受け入れられた。そうした経験は、JVCはじめ多くの団体が共有している。「普通の国」になることで 失うものはあまりに大きい。

足元から民主主義が壊される

3月20日に行われたNGOと外務省の協議の場であるODA政策協議会に向けて、 JVCは武器取引反対ネットワークとの連名で、「安全保障能力強化支援」に関する議題を提案した。しかし外務省から「協議会では扱えない」と拒否された。 ODA政策 協議会が始まって20年になるが、 NGO の提案議題が拒否されるのは初めてだという。その理由は「安全保障能力強化支援」 が「ODAではない」から議題の範囲外 というものだった。

これまで、ODA政策協議会の議題はODAに限定せず、関連する政策課題を幅広く取り扱ってきた。しかも今回の「安全保障能力強化支援」は、非軍事原則への影響などまさにODAに深く関連している。

NGO側の粘り強い主張にも関わらず、 外務省は「拒否」の姿勢を崩さなかった。そこにはこの議題を避けようとする意図を感じざるを得なかった。結果的には、議題提案者である私たちが質問内容の大幅な変更を余儀なくされた。

安保3文書は、「国家間競争」が激しくなる中、民主主義などの「普遍的な価値」を守るために防衛力の強化が必要だと説いて いる。だがその方針によって日本の国際協力は大きく歪められ、外務省と市民社会とが積み上げてきた対話の場にまで影響は及んでいる。「民主主義を守る」という大義のもとに、足元から民主主義が壊されている。

◎注1・・・Trial& Error 352号 「自由で開かれたインド太平洋」 のもとで平和主義、国際協調主義を捨てるのか 

◎注2・・・ 東京新聞 202333日朝刊20

執筆者:

JVC代表理事 今井 高樹

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