要請書 声明

【公開書簡】米国がミャンマー軍政の国防省を制裁対象に 日本政府は直ちにYコンプレックス事業からの完全撤退をすべき

国際協力銀行代表取締役総裁 林 信光様
海外交通・都市開発事業支援機構代表取締役社長 武貞 達彦様
CC:
財務大臣 鈴木俊一様
国土交通大臣 斉藤鉄夫様

ジャスティス・フォー・ミャンマー
メコン・ウォッチ
国際環境NGO FoE Japan
日本国際ボランティアセンター
ヒューマン・ライツ・ウォッチ
ヒューマンライツ・ナウ

米国政府は2023年6月21日、ミャンマー軍政の国防省を金融制裁の対象となる「特別指定国民」に指定したと発表しました(1)。国防省が「数十年にわたり抑圧的な軍事支配を行い、2021年のクーデター後にそのような支配を暴力的に復活させたミャンマー軍を指揮し支配している」ことを理由としています。これにより日本の公的資金を使って実施されている事業の一つ、ヤンゴン博物館跡地再開発事業(通称Yコンプレックス事業)とミャンマー軍政の続けている暴力との関係がより明確になりました。

Yコンプレックス事業は、ミャンマー最大都市ヤンゴンの軍事博物館の跡地に大規模複合不動産を建設・運営するもので、日本の官民が関与しています。国土交通省所管の官民ファンドである海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)と財務省所管の輸出信用機関である国際協力銀行(JBIC)は、ミャンマー軍が支配する国防省が関与するこのYコンプレックス事業に出資や融資を行ない(2)、ミャンマー軍が2021年2月1日に起こした未遂クーデター以降も関与を続けています。

東京建物株式会社と株式会社フジタ(大和ハウス工業株式会社子会社)、およびJOINがシンガポールに特別目的会社(J-SPC)を設立し、このJ-SPCにJBICが三井住友銀行、みずほ銀行と協調融資を行ない、さらにこのJ-SPCがミャンマー企業、Yangon Technical and Trading Company Limited (YTT社)と共同でミャンマーに設立したY Complex社に共同出資を行うという事業形態となっています。

土地の賃貸借契約は、上述のYTT社と「アウンミンテイン大佐(士官番号 陸軍17642)、総司令官(陸軍)兵站局兵站副局長」との間で結ばれており、賃料は兵站局(Office of the Quartermaster General)が管理すると見られる口座「Defense Account No. MD010424」(「防衛口座番号 MD 010424」)に支払われます(3)。米国、英国とカナダは2021年12月10日に兵站局に制裁を科しています(4)。英国政府は、兵站局は「弾薬、爆弾、ジェット燃料といったミャンマー軍の装備の調達に重要な役割を担う」機関である、と指摘しています(5)。最近では2023年7月20日にEUが兵站局長であるチョースワーリンに制裁を科すと発表し、チョースワーリンについて「その政策や活動がミャンマー/ビルマにおける民主主義と法の支配を損ない、ミャンマー/ビルマの平和と安全と安定を脅かす行為を支持している人物である」と述べました(6)。

私たちは、Yコンプレックス事業における建設地の賃料の支払いが兵站局を通じたミャンマー軍への資金提供となると理解し、未遂クーデター以前からこの問題を指摘していました(7)。

これまで、Yコンプレックス事業に関わるJOINとJBICは、兵站局が国防省内にあり、ミャンマー政府の一機関であるため、土地賃料の支払いによってミャンマー軍を利することはないと説明してきました(下記参照)。

JOIN代表取締役社長の武貞達彦氏の答弁(2021年4月20日の衆議院財務金融委員会)
「この事業の用地の契約につきまして、J-SPCは直接関与はしておりませんが、現地ミャンマー企業が政府の一員である国防省と土地リース契約を結び、土地の利用権を得た上で、その現地企業から当該現地事業会社がサブリースを受けるという契約になっております。現状を確認はしておりますが、土地の支払いにつきまして、政府内部で適切に管理されていたと承知しております」(8)。

JBICのYコンプレックス担当者の発言(2021年3月5日の財務省・NGO定期協議)
「本件は賃料がミャンマーの国防省の兵站局に支払われていることは JBIC としても承知している。その賃料支払いについては、歳入としてミャンマー政府の一般会計に入っているものと認識している。(中略)ミャンマーにおいては予算法という法律に基づいて、いわゆる一般会計予算が対外公表されており、そこの枝ぶりとして国防省も含まれている」(9)。

これらの発言から、JOINとJBICともに、賃料が軍を利することは避けるべきという認識でおり、賃料の最終的な行き先が国防省つまり政府であるという見解を公式に示すことで、賃料が軍には行っていないという体裁を保とうとしていたことがわかります。このたび米国が国防省を制裁対象としたことで、こうした言い訳はこれまで以上に根拠を欠くものになりました(10)。

Yコンプレックス事業の土地賃料は、最終的な支払い先が兵站局であろうとも同局と関連のある国防省であろうとも、軍が国の全土で残虐な犯罪を犯し続けることを可能にしています。国連によれば現在ミャンマーには190万人の国内避難民(IDP)がいます(11)。日本政府と日本企業は、国連ビジネスと人権に関する指導原則やOECD多国籍企業ガイドラインのもとの責任を果たすため、Yコンプレックス事業への関与を直ちに止めるべきです。そのためには、国土交通省は直ちにJOINの出資を引き揚げ、財務省もJBICの本事業への融資を取り消して、同事業への公的資金の投入を止め、その決定を公表すべきです。

[1] "Treasury Sanctions Burma’s Ministry of Defense and Regime-Controlled Financial Institutions," June 21, 2023 https://home.treasury.gov/news/press-releases/jy1555

[2]  JOIN. ミャンマー・ヤンゴン博物館跡地再開発事業 2017年7月28日 https://www.join-future.co.jp/images/topics/1602825053/1602825053_10001.pdf

JBIC. ミャンマー連邦共和国において日本企業が実施する複合不動産の開発・運営事業に対する融資 2018年12月18日 https://www.jbic.go.jp/ja/information/press/press-2018/1218-011714.html

[3] ミャンマーY コンプレックス事業に関与する東京建物、大和ハウス工業にエンゲージメントを求める要請書 2022年5月24日 http://www.mekongwatch.org/report/burma/mbusiness/20220524Letter_Jp.pdf

[4] US Department of the Treasury, "Treasury Sanctions Perpetrators of Serious Human Rights Abuse on International Human Rights Day," December 10, 2021:  https://home.treasury.gov/news/press-releases/jy0526;

Foreign, Commonwealth & Development Office, "New UK sanctions target human rights violations and abuses in Myanmar and Pakistan," December 10, 2021: https://www.gov.uk/government/news/new-uk-sanctions-target-human-rights-violations-and-abuses-in-myanmar-and-pakistan;

Global Affairs Canada, "Backgrounder: Additional Myanmar sanctions," December 10, 2021: https://www.canada.ca/en/global-affairs/news/2021/12/backgrounder-additional-myanmar-sanctions.html

[5] Foreign, Commonwealth & Development Office, "New UK sanctions target human rights violations and abuses in Myanmar and Pakistan," December 10, 2021: https://www.gov.uk/government/news/new-uk-sanctions-target-human-rights-violations-and-abuses-in-myanmar-and-pakistan

[6] Council of the EU, "Myanmar/Burma: EU imposes seventh round of sanctions against six individuals and one entity," July 20, 2023: https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2023/07/20/myanmar-burma-eu-imposes-seventh-round-of-sanctions-against-six-individuals-and-one-entity/

[7] 【要請書】ミャンマーにおける複合不動産の開発・運営事業(通称 Y-Complex 事業)に係る資金の流れ及び人権に関する説明について(2020.8.25).  http://www.mekongwatch.org/PDF/rq_20200825.pdf

[8] https://www.shugiin.go.jp/Internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/009520420210420012.htm

[9] http://jacses.org/wp_jp/wp-content/uploads/2021/05/mof75.pdf

[10] JOIN代表取締役社長の武貞達彦氏(2021年4月20日の衆議院財務金融委員会)は「弊社がJ―SPCを通じて出資する現地事業会社は、本年二月一日、クーデター以降は、土地リース契約先に対して、本事業用地の地代等の支払いを一切、行った事実は現状ございません」と答弁していますが、賃貸借契約そのものが継続している限り、YTT社は兵站局に対して賃料を支払う義務を負い続けます。

[11] Myanmar Humanitarian Update No. 31, July 15, 2023: https://reliefweb.int/report/myanmar/myanmar-humanitarian-update-no-31-15-july-2023

呼びかけ団体

アーユス仏教国際協力ネットワーク
国際環境 NGO FoE Japan
日本国際ボランティアセンター(JVC)
武器取引反対ネットワーク(NAJAT)
メコン・ウォッチ

賛同:59団体

ダウンロードできるデータ

本件の連絡先

本件に関する問い合わせ先:

ジャスティス・フォー・ミャンマー ヤダナーマウン (英語): media@justiceformyanmar.org

メコン・ウォッチ 木口由香 (日本語、英語): info@mekongwatch.org 

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