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ODA ウォッチ: プロサバンナ事業 第23回

「不都合な真実」から 目をそらし続けられるのか

JVC専門アドバイザー(政策提言) 高橋 清貴
2019年10月16日 更新
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この連載で取り上げているJICAによるプロサバンナ事業は、現在その事業計画(マスタープラン)の策定を中断している。
これまで現地や日本の市民団体が提言活動を続けてきた結果と言えるかもしれないが、かと言って事業の影響を受ける現地農民を取り巻く状況は、必ずしも好転はしていない。
市民的自由や人権の保障といった(ある程度普遍的と言える)価値を、開発支援の現場においてどのような姿勢で組み込んでいくべきなのだろうか。

「民主主義」の後退と市民的自由の抑圧

フリーダム・ハウスという米国に本部を置くNGOが出している報告書、『Freedom in the World 2018』※注(1)を読む機会があった。世界の自由権、市民権の状況を調べて毎年1月に発行している世界人権状況白書の一つである。レポートは、国民に自由が保証されており、公正な選挙、少数派の権利の保障、報道の自由、適切な法制度がある国家を「自由のある国家」とし、このような国家は世界の全国家のうち45%で、「部分的に自由」なのは30%、「自由でない」国は25%で、人口別に見ると、「自由」が39%、「部分的に自由」が24%、「自由でない」が37%としている。いわゆる「西側諸国」の大半が「自由」な国家とされ、アフリカや中東に「自由でない」国が多い。特に、今年のレポートの目玉は、トランプが米国の大統領となったことで米国の民主主義に対する影響力が弱まる一方で、中国やロシアが「非民主主義」への影響力を強め、世界全体で民主主義が脅かされる動きを加速していると警鐘をならしている点である。確かに、フリーダム・ハウスの考える「民主主義」には米国的な民主主義思想が色濃く反映されていて必ずしも全面的に賛同できるものではないが、世界で「民主主義」や市民的自由が危うくなってきているという指摘は、プロサバンナにおいても実感しているだけに違和感なく読んだ。

これまで何度もJVCの渡辺が報告してきたように、プロサバンナ事業をどうしても進めたいモザンビーク政府の、農民に対する厳しい姿勢はナンプーラ州農務局長の抑圧的とも取れる発言を導き出したりしている。抵抗する農民たちは、局長の発言を表現の自由を奪う人権侵害であると指摘している。日本では想像しづらいが、役人の前で農民は自由な発言を躊躇する。それでも彼らは果敢にプロサバンナ事業に対する異議を唱え、抵抗を続ける。そのコミットメントに敬服すると同時に、彼らが危険と隣合わせの状況に置かれていることを憂えないわけにはいかない。仮にマスタープランについて話し合いができるようになったとしても、政府による抑圧状況が続く限り、自由な対話は見込めないからだ。モザンビーク農民のための開発であるならば、人権抑圧状況の改善は、事業を進める大前提であるはずだ。そして、それは援助する側の責任でもある。にも関わらず、外務省は一貫して人権問題に向き合おうとしない。

「立場をとる」ことの責任を

一体、どういうことなのだろうか?証拠に乏しいと言われる心配もあって、市民たちは農務局長の発言の録音も資料として提供した。それでも、外務省は人権侵害を認めない。提供した録音に信憑性がないということなのだろうか?問い質しても、外務省は「その立場にない」という煮え切らない発言と態度を繰り返すばかりだ※注(2)

確かに、日本がモザンビーク政府の人権侵害を認めれば、その影響は小さくないだろう。どこまでが人権侵害でどこからそうでないかという線引きは慎重を要する、という言い分もわからないわけではない。しかし、重要なのは、マスタープランづくりが進む限り、危険な人権侵害状況が続いていくことは確実であるし、その被害を被るのは農民に他ならないことだ。プロサバンナ事業とは、建前でも日本政府は「農民のため」であると言っていたはずだ。人権問題に後ろ向きの姿勢を続けることは、「農民のための開発」に正面から向き合わないことと同義ではないのか。こうしたところから、農民たちは「プロサバンナは農民のため」と言っても口先だけに過ぎないと看破するのだ。

「地球の境界」※注(3)を超えようとしている今、プロサバンナに限らず、経済成長重視の開発は、食、水、エネルギーの不足や環境破壊、民主主義の後退といった「壁」に直面することは必至だ。そして、それらは政府自身に向けて「不都合な真実」となって立ち現れてくるであろう。その時、日本はどうするのだろうか?主体的に責任と判断力を持って行動するだろうか。それとも、「相手国にせい」にして曖昧な姿勢を取り続けるのだろうか?それは、大きなツケとなって日本自身に降りかかってくるのではないだろうか。日本がSDGsを標榜するのであれば、"Not Business As Usual"、すなわち既存のシステムの改善ではなく、ラジカルに新しい経済と社会のシステムを求める方向にしっかりと舵を切るべきである。プロサバンナの人権問題にきちんと向き合えない政府に、SDGsを達成させる力はない。

※注(1)https://freedomhouse.org/report/freedom-world/freedom-world-2018

※注(2)こうした経緯については、本誌332号の本連載記事を参照。

※注(3)https://www.stockholmresilience.org

No.333 ボランティアが続けた30年間の活動を振り返る (2018年10月20日発行) に掲載】

※後日、掲載年月別一覧を用意します。

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