REPORT

紛争によって「学び」の選択を潰してはならない/事務局長伊藤の想い

今回のレポートでは、新規事業のイエメンについて、事務局長・伊藤の想いをお届けします。1年半の準備期間を経て、ようやく入国できたイエメン。

避難民キャンプの子ども達の様子を見て、胸が潰れそうになりながら「JVCにできること」を考え続けた伊藤の貴重なレポートです。

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2022年3月、1年半の準備を経てイエメン南部の都市アデンの空港に降り立ちました。

天気は快晴。街中のラマダン直前のスーク(市場)は賑わい、海岸や海沿いのフィッシュマーケットやレストランは家族連れの憩いの場になっていました。思っていたより活気が見られ、平穏な街の様子。

(写真:2022年3月のアデンの街)

けれど、滞在したホテルの隣には、2015年3月のアデン空爆によって破壊されたホテル。移動中には、崩壊し銃弾の跡が残る建物。所々ある検問所には銃を持った兵士の姿があり、厳しい目を向けられるたびに、内戦がすぐそこにある緊張が走ります。

(写真:破壊されたままの建物)

暫定政府による社会サービスが限られ、水道や電気の供給も制限があり、料理用ガスタンクのガス補給ステーションには毎日長い列。訪問時のガソリン代は、【前の週と比較して約 4 割増し】でした。

 戦闘から逃れた人のアデンへの流入は後を断ちません。前月に起こったウクライナ紛争の影響で、主食の小麦粉価格の高騰が市民生活、避難民の支援に大きな影響を及ぼすことが懸念されていました。

戦闘の前線から避難してきた国内避難民が居住するキャンプでは、まだ10代の少年が日銭稼ぎのゴミ拾いをして7人家族を支えていました。夫が紛争で行方不明のシングルマザーは、子ども4人を抱えてゴミ拾いに出かけるのもままならず、生活が困窮していると言いました。

(写真:子ども4人を育てるお母さん、Dar Saad国内避難民居住区 )

身分証明を紛失し、学校に通えないという子どもたちも。一見平穏なアデンでも、いつまた情勢が悪化するのかわからない。言い知れない不安とともに、市民は今を生きていました。
 
紛争が始まって7年。「忘れられた紛争」の中で今、国内で何が起こっているのか、今更やってきた私たちにできることがあるのか・・・という思いでイエメンに入りました。そこで、現地のNGOや機関から「その場で終わる物資配布のような活動ではなく、人々には将来につながる永続的な解決につながる活動が必要なのに、支援がつきにくい」という声を聞きました。

(写真:国内避難民キャンプでの聞き取り)

緊急的な支援活動として特に衣食住が優先され、教育分野の支援や支援団体数が限られていること。中でも幼児教育は、さらに支援が限られていることもわかりました。紛争下でこそ教育や適切な保護、ケアを通して、子どもたちの生命や権利、尊厳を守ることが可能になると言われています。子どもたちを更なるリスクから守るためにも重要なことです。「現地の人々の意志に寄り添う活動を」と、JVCは幼稚園と教育事務所の支援を決定しました。
 

今回、私たちのパートナーとなる現地NGO「Nahda Makers Organization(NMO)」 は、2012年に、国連などでのボランティア経験がある20代の若い仲間が集まってつくったNGOです。

(写真:左からJVC伊藤、JVC今中、NMOスタッフ)

「Nahda」は「ルネッサンス=再生」という意味。2015年、アデン市内で5ヶ月間に及んだ戦闘がおきました。封鎖された地域に閉じ込められ、スタッフも移動ができなかったと言います。4ヶ月目には団体の資金が尽きて無給になりましたが、翌月には活動を開始したそう。

テキパキと仕事をこなす中で「まだ悪夢の中にいるよう」「先のことは正直、暗闇でわからない・・・」と呟く彼ら。JVCはイエメンの再生のために立ち上がった彼らに寄り添い、応援したいと考えています。
 
国内避難民のキャンプを訪れたとき、日中、大勢の子どもたちが限られたスペースで遊んでいるところに遭遇しました。子どもにとっては、遊ぶのも仕事です。けれど、この一瞬、一日がこの子たちの将来にとって、どれだけ大切な時間なのか・・・。胸が潰れそうでした。

 大人たちが安全や生活の心配をしている日常、破壊された建物を見続ける子ども達。心理的な影響は、はかり知れません。これまで、ミャンマー(ビルマ)難民キャンプやアフガニスタンで子どもたちのための教育活動をしてきた経験からも、この影響が容易に想像できました。

大国や大人による紛争によって、この子たちの「学び」の選択を潰してはいけない。争いや貧困の負の連鎖を生んではいけない。現地の若い世代と目的を共にして、JVCはイエメンで教育・幼稚園支援に取り組みます。

執筆者:伊藤解子(事務局長)

大学卒業後、英国大学院留学、東南アジアでの民間企業勤務を経て1999年に教育協力NGOの東京事務所に入職。カンボジア、ラオス、タイ、パキスタン、ビルマ/ミャンマー難民キャンプ、アフガニスタンでの教育支援、国内外の緊急救援、政策提言・調査研究業務に携わる。東南アジア、南アジア、中東、アフリカでのODA事業評価にも従事。2018年よりJVC理事。2020年7月より現職。

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