
着実に進む新生活
空に浮かぶ真綿のような雲、大地を覆う緑のじゅうたん。山から吹く爽やかな風にあたっていると、ここが紛争地であることを忘れてしまいそうです。
ラマダン明けの休暇が終わった8月中旬、雨季の半ばの晴れ間を縫って、JVCスタッフ3人はカドグリ郊外、ティロ村近くの避難民向け住居を訪れました。種子を配布したあとの様子を確かめるため、10日ぶりの訪問になります。
なんと、避難民向け住居の敷地の中といい外といい、どこもかしこも畑になっています。作物が芽を出している畑もあれば、まだ種まき前で雑草刈りと地ならしをしている畑もあります。
畑から戻ってきた女性たち。この写真の撮影場所も実は畑の中
芽を踏まないように気を付けて歩いていると、農具を肩に担いで畑から戻ってくる年配の女性たちにすれ違いました。
「今日も雑草を刈って、また少し種をまいてきたよ。種まきはもうすぐ終わるね」
遠くまで見渡すと、あちこちで畑仕事をしている人々の姿が見えます。スタッフも安心しました。
そこで、住居の間を少し歩いて人々の暮らしぶりを見ることにしました。
メディナさんの家にお邪魔するタイーブ(右)
「こんにちは。誰かいますか?」
扉が開け放しになった住居の前で、スタッフのタイーブが声を掛けてみました。中から出てきた主婦はタイーブを見るなり
「ああ、あんた、このまえ種を配っていた、なんだっけ・・・」
「ムナザマ・ヤバニア(※)です」
「そうそう、ムナザマ・ヤバニアの人だね」
「はい。少し話を聞かせてもらえますか」
「いいわよ。入んなさいよ」
タイーブたち3人は家の中に招かれました。ひと部屋だけの住居です。
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部屋にはベッドが二つ並んでいます。タイーブはそこに腰かけました。スーダンの田舎の家ではベッドが椅子代わりです。
「狭いでしょ。これじゃ家族みんなで生活できないわよ」
と言うこの家の主婦は、メディナさん。カドグリの南30キロ、ブラム郡からの避難民です。2年前に避難して以来、カドグリ市内のマサネ地区に仮設の小屋を作り、夫と子供4人、それに妹の家族と一緒に生活してきました。
「子どもたちや妹の家族はまだマサネにいるの。こっちが準備できたら、みんなで移るのよ」
今はまだ、メディナさんと夫だけがここに来て、家族の受け入れ準備をしているようです。でも、準備というのは?
「ラクバを作らなきゃね」
ラクバとは、軒先に作る庇(ひさし)、または草ぶきの小屋のことです。本来は暑い家の中を避けて快適に過ごす空間、または日射しを避けて作業を行う場所のはずですが、ここ避難民向け住居にあっては、狭い住居を補うための「増築」です。
メディナさんにお礼を言って外に出ました。あらためて周囲の家々を見ると、たくさんのラクバが作られ、あるいは現在建設中です。
これがラクバ、日中も涼しくて快適
「おい、あそこで何か売っているぞ。何だろう」
歩きながら、タイーブが声を上げました。
「えっ、なに?・・あれ、お店じゃないの?」
と答えるスタッフのアドラン。ひょっとして、ここに商店がオープンしたのでしょうか?
近づいてみてみると、やはりそうです。1軒の住居の前で、ほんのわずかですが商品を並べて売っています。小分けしてビニール袋に入った炭、石鹸、砂糖など日用品や食品。いやはや、ビジネス精神旺盛な人はどこにでもいるものです。
第1号の商店。右側のビニール袋に入っているのが炭
店番をしていた主婦と話をすると、商品はカドグリ市内で購入して、小分けして売っているとのこと。
「炭は、ここで焼いているんですか?」
「いえ、炭も市内で大袋を買ってきてビニール袋に詰め替えるんです」
なるほど。炭焼きはまだなのですね。
商店を離れてしばらく歩くと、年配の主婦や若い女性が外に集まって談笑しながら炊事、洗濯をしている家がありました。傍らには、ラクバの建設資材なのか、燃料用なのか、木の枝が積まれています。
スタッフのサラはしばらく彼女たちに交じって談笑していましたが、やがて話題は「水」に移っていきました。
洗濯、炊事、おしゃべりが同時進行。左手前に座っているのはサラ
「ここに引っ越して来たのはいいんだけど、水汲みが大変なのよ」
住民は約1キロ離れたティロ本村の井戸まで水汲みにいかなくてはなりません。
「ロバに引かせた水売りも来るんだけどね、ここは遠くにあるからって値段が高いのよ」
「いくらですか?普通は、ポリタンク3個で1スーダンポンド(約15円)ですよね」
「それがね、ポリタンク2個で1スーダンポンドもするのよ」
彼女は炊事の手を休め、サラを見て少し怒ったように言いました。
毎度おなじみ、ロバの水売りでございます
自分が怒られているように感じたサラが戸惑っていると、横からアドランが助け船を出してくれました。
「もうすぐユニセフが、ここの住民向けに手押しポンプ井戸を設置する予定です。それとは別に、JVCも井戸の建設を始めます」
「本当なの?それなら、早く作ってよ。いつできるのよ、ねえ」
みんな口々にそう言い出して、こんどはアドランが標的になってしまいました。
避難民向け住居での新しい生活は、着実に始まりました。あっという間に住居は増築され、商店ができ、畑が広がっています。人口も増えるでしょう。
ここでの私たちの次の活動は、井戸の建設。その様子は、引き続きこの「現地便り」でお知らせします。
【おことわり】
現在、JVC現地代表の今井をはじめNGO外国人スタッフが南コルドファン州に入ることは、スーダン政府により制限されています。このため、2012年1月以降の「現地便り」はカドグリの状況や活動の様子を、JVCスーダン人スタッフの報告に基づき今井(首都ハルツームに駐在)が執筆したものです。