アジア・中東・アフリカで活動する国際協力NGOです。
  • JVC facebook
  • JVC twitter
  • イベントメルマガ配信中
  • 文字サイズ:大きく
  • 文字サイズ:中くらいに
  • 文字サイズ:小さく
JVC English website
ODAウォッチ:プロサバンナ事業 第3回

「食料安全保障」か「食料主権」か

調査研究・政策提言担当 高橋 清貴
2013年9月19日 更新

ODA のプロサバンナ事業に関する連載。3 回目の今回は、6 月のTICAD の際に提出された公開書簡の内容と、「食料安全保障」と「食料主権」というふたつの言葉の違いからこの事業の問題点を考える。(編集部)

国際会議の陰で

アフリカ五十四ヵ国のうち五十一ヵ国が参加した第五回アフリカ開発会議(以下TICAD)は六月三日、『横浜宣言』※注(1)を作成して閉幕した。最貧国が集まるアフリカを底上げするために一九九三年に日本主導で始まったTICADだが、今回は「躍動するアフリカと手を携えて」を基本テーマとし、民間セクター主導による経済成長を重要視し、その恩恵をあまなく行きわたらせることを目指す方向性が強く打ち出されたものとなった。特に、インフラ、製造業、観光業に加え、農業への投資促進が強調し、自給自足の小規模農業から商業的農業経営への移行を目指すとしている。

この大きな会議に、私たちの招きで二度目の来日を果たしたモザンビークの農民たちは、ホスト国の安倍首相にレセプションで会い、民間投資による大規模農業開発に明確に反対する意を伝える公開書簡※注(2)を手渡した。この書簡のなかで、農民たちは次の様に訴えた。

「我々モザンビークの農民男女、ナカラ回廊沿いの農村に暮らす家族、宗教組織、市民社会組織は、次の点について緊急に批判し拒否する。

  • プロサバンナ事業に反対し農業部門の持続可能な発展のための代替案を提案するコミュニティや市民社会組織への脅迫
  • ブラジルや日本、国内の企業だけでなく、他国の企業を含むローカル・コミュニティの土地強奪への差し迫ったプロセス
  • 家族経営農業による生産システムを破壊し、輸出のためのモノカルチャー生産に基づいた生産や生産性の増大化に基礎を置くこと
  • 深刻な内部矛盾を生み出したブラジルの農業開発モデルをモザンビークに輸入すること」

そして、同事業を根本から見直すために、すでに一部先行して実施されている「クイック・インパクト・プロジェクト」などの即時停止を求めている。この書簡はモザンビーク政府にも送られたが、この極めて論理的で格調高い文章を見てモ国の農業大臣は、「こんな立派な文章を、教育のない農民たちに書けるはずがない」と言ってあしらった。あくまでも政府は、「大企業をモザンビークに連れてきて商品作物を生産し、外国に輸出する」ことにこだわる。

これほど政府と農民が対立する「開発」とは一体何だろうか?そして、そのような対立をつくり出してしまったドナー国日本の国際協力とは何だろうか?問われているのは、「何のための開発か」「誰のための開発か」という根本的な命題だ。「脅迫への拒否」を公開書簡のトップに書かざるを得ないほどに、事態が深刻であることを私たちは理解すべきであろう。

カンボジアでも、長い紛争の後にできた政権が自国の土地を経済政策として活用するため、今でも土地を奪われる住民が後を絶たない。かつて日本でも、薩長の明治新政府は激しい農民弾圧を行なった。そうした中での抵抗は、文字通り「命がけ」だ。しかし、農民たちは自分たちの土地と農の営みを守るために闘う決意を固めている。

食料安全保障と食料主権

今回のTICADで採択された『横浜行動計画』の中には、「食料安全保障」という言葉が書かれている。これは国家単位での食料の安定を図るための考察概念であり、食料の輸入や購買も含まれる。モザンビーク政府もこの言葉を使って、プロサバンナ事業が「決して日本やブラジルの外国資本のためのものではない」と強調する。また、国内で大豆やトウモロコシなど様々な農作物を生産するので、多様性も確保されると言う。

これに対して農民たちが求めているのは「食料主権」である。これは、何を育て何を食べるかを決める権利を農民自身が有することを指す。農民たちの関心や立脚点は個人やコミュニティ単位にあり、不確実な農業収入と生産性の向上と引き替えに、安定した食料確保のための土地や環境の多様性が失われることを心配しているのだ。何よりも、その土地には農民が生きてきた中で蓄えてきた知恵と生産環境が残されているのである。

TICADに併せて横浜で開催したシンポジウムで、来日した若手のひとりであるヴィセンテは言った。「祖父と父親がこの土地を耕し、僕を大学まで行かせてくれた」「僕を育ててくれた土地を簡単に手放すわけにはいかない」。私は、この言葉を原発事故に苦しめられている福島の農民の言葉と重ねて聞いた。私を生かしてくれた土地。豊かな恵みを与え、育ててくれた存在は、まさしく「母なる土地」なのだ。「開発」と「経済成長」の名の下で、「家族」を分断するような仕儀は、いい加減自重すべきだろう。

※注(1) 『横浜宣言』の全文:http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/page3_000209.html

※注(2) 公開書簡の全文:http://mozambiquekaihatsu.blog.fc2.com/blog-entry-27.html

TEprosavana-3.jpg

No.304 国境が引かれ、対立と不信が残された後で (2013年8月20日発行) に掲載】

※後日、掲載年月別一覧を用意します。

団体案内
JVCの取り組み
11ヵ国での活動
イベント/お知らせ
現地ブログ
あなたにできること
その他
特定非営利活動法人 日本国際ボランティアセンター
〒110-8605 東京都台東区上野5-3-4 クリエイティブOne秋葉原ビル6F 【地図】
TEL:03-3834-2388 FAX:03-3835-0519 E-mail:info@ngo-jvc.net