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いま改めて、リビアを考える。

調査研究・政策提言担当 高橋 清貴
2011年5月 2日 更新

今、日本は東日本大震災と津波、そして原発事故の問題を抱え、複雑かつ大変な人道危機状況に直面しています。私たちJVCも、国際協力を専門とするNGOですが、同じ人道危機状況に対してできるだけのことをしようと様々な活動を始めています。しかし、その一方で海外においても、特に中東地域のリビアで、いわゆる「民主化」といわれるプロセスの中で人道危機状況が深刻化する事態が起こっています。私たちも国際協力NGOとして、こうした問題を無視することはできません。以下は、リビア情勢に対して、イラクやアフガニスタン、パレスチナ地域で活動するJVCスタッフと調査研究担当が、これまでの経験を踏まえて議論したことの一部を「提言」の形でまとめたものです。

人道危機の回避は外部からの介入によるレジームチェンジでは達成されない! 〜リビアをイラク、アフガニスタンのようにしてはいけない〜

3月17日、仏軍を中心とする多国籍軍は国連安保理決議1973に従って、リビアに軍事介入しました。カダフィ大佐率いる政府軍による反政府軍に対する軍事行動を阻止し、人道危機状況を回避することが目的です。リビアの反政府活動は、チュニジアに始まった民衆蜂起による政権交代がエジプトからリビアに飛び火して活発化したと言われています。しかし、リビアの場合、反政府活動が軍事的衝突までエスカレートし、国連によれば3月7日の時点で推定1000人が死亡、20万人もの市民が国外に逃亡し、3月11日には国際赤十字(ICRC)が「内戦」と言明するほどになりました。これに対し、国際社会は、経済制裁や資産凍結を含む政策措置を実施する国連安保理決議1970を出しましたが、リビア政府はこれに従わず、軍事的対立は更にエスカレートしたために、3月16日にはICRCがリビアから撤退しなければならなくなってしまいました。この事態に対し、リビア国連大使が「ジェノサイド」と発言したため、国連は3月17日に「飛行禁止区域措置」を盛り込んだ国連安保理決議1973を出し、多国籍軍による軍事介入を開始したのです。それから1ヶ月以上経ちましたが、今も政府軍・反政府軍の衝突は続き、一向に停戦の兆しを見せていません。

こうした事態に対し、私たち日本国際ボランティアセンター(JVC)は、この「内戦」とも言える衝突が長引き、リビアがイラクやアフガニスタンと同様な状況になるのではないかと危惧しています。混乱は、極めてリビア国内の問題であったにも関わらず、米英仏が主導した多国籍軍による空爆を中心としたリビアへの軍事介入は、この混乱を加速させ、より複雑なものにしました。多国籍軍による誤爆は言うに及ばず、政府軍と反政府軍の衝突の激化は、リビア市民の安全を脅かし続け、関与していない民衆までも甚大な被害を及ぼし始めています。この事態に、私たちJVCは、これまでのイラクやアフガニスタンでの活動経験を振り返るとき、強い憂慮の念を隠せません。JVCは、自らを現地の人々に寄り添い、彼らの意思を尊重しながら活動を行ってきましたが、それは人々の潜在的可能性を守ることが「人道」であると考えているからです。武力介入による「暴力」の連鎖が始まった今、リビアの人々の人道状況は良くなるどころか、むしろ悪化しているように思われます。もし今後、リビアの事態が改善せず、イラクやアフガニスタンと似たような状況になっていくことを恐れます。一般論として、「人道危機状況の解決」は国際社会の責任であり、早期の対応は必要です。しかし、その目的のために軍事的手段を用いることに関しては議論があります。特に、今回のリビアのように政権交代(レジームチェンジ)をねらった介入は、人道上の目的を達成できないばかりか、更なる人道の危機を招きかねないことは歴史的にも、それもこの数年の過去を振り返るだけでも明らかではないでしょうか。状況の悪化と複雑化が進む前に、改めて事態の収拾に向けた適切な対応の検討が望まれます。

1)人道危機状況の悪化

難民は、既に37万人以上が出ていると報告されています。今回の空爆による武力介入は、この危機を解決することが目的でしたが、早期解決に至らず、政府軍と反政府軍による軍事衝突は現在まで続いています。衝突が長引けば、さらなら難民を発生させることは必至です。しかし、国際社会は、これに対する十分な受け入れ体制を整えているように見えません。近隣国エジプトは、これ以上の難民の受け入れは難しいと言っていますし、国際社会からの支援も、国連人道問題調整事務所は対処に必要な予算160万ドルのうち67%しか集まっていません (3/24時点)。

2)リビア国内での人道危機状況への不十分な対応

今回の武力介入は、リビア政府軍の攻撃を止めさせ、人道状況を改善することが目的でしたが、用いられた手段は「空爆」が中心です。またこれまでの経緯を見る限り、戦闘を終結させることはおろか、住民保護も十分に達成できていません。住民保護は、一方を「敵」とみなして軍事的に叩くことによって達成させるのが難しいことは、過去の経験からも明らかです。人々の命を守るという人道的活動は、破壊と殺戮を目的とする攻撃的手段とは相容れず、復讐と暴力の連鎖を導く危険性の方が高いからです。

3)安易な軍事介入を助長する

長引く軍事衝突は、社会的混乱を根深いものにします。長期にわたって占領と介入が続くイラクやアフガニスタンでも、社会的混乱は人々の安心と生活の安定を揺るがし、住民に精神的負担を負わせ続けています。もし仮に「保護する責任」という名目で武力行使を伴った介入手段に訴えるのであれば、その「目的」や「手段」を明確化にし、特に「終了方法」を事前に明確に設定しなければなりません。しかし、現在のリビアは、長期化の兆しを見せ、軍事衝突がエスカレートするばかりで、解決からますます遠ざかっているように思われます。武力介入は果たして正しい政策選択だったのでしょうか。その「目的」、「手段」、そして「終了方法」について、明確性と非代替性の観点から改めて検証し直すべきでしょう。

4)中東で進む市民による改革運動を複雑にする

チュニジア、エジプトなど、リビアに先立って起こった、いわゆる「民主化プロセス」は、中東における市民社会の力と可能性を示唆していました。しかし、今回のリビアは、国際社会が武力介入を行ったために、「当該国市民による自然発生的な民主化運動」という側面、「権益と軍事力をかさにきた欧米諸国の介入」という側面が強調されてしまい、事態に対する人々の認識と共感を複雑なものとしてしまい、リビア国内外からの信頼と支持を失わせてしまったように思われます。その後、シリアで起こった混乱にしても、リビアに対して国際社会が行った武力介入の影響を引きずっていることは明らかです。

5)「軍による人道支援」というものの正当化

国際社会は、空爆を中心とする武力介入がその「目的」(人道危機を止める)を直接的に達成することは難しい、ようやく考え始めているようで、多国籍軍によるHumanitarian corridorの確保と人道支援の必要性を訴えています。しかし、武力介入の後での人道支援という政策判断は、極めてミスリーディングです。このような順序での「人道支援」の必要性のアピールは、先に行った武力介入の正当化を後付で行おうすることに他ならず、それは逆に自らつくりだした「人道ニーズ」に軍隊で対応しようとすることに他ならず、本末転倒です。軍による人道支援の是非については、未だ国際的議論があり、決着もついていないと理解しています。今回の拙速な武力介入と安易な軍による人道支援活動の組み合わせが、今後の人道支援のあり方をより複雑で政治的なものにしてしまうことを懸念します。

6)日本政府の政策判断に対する疑問

国連安保理決議1973(3月17日)を経て行われた、今回のリビアへの多国籍軍による武力介入ですが、それに日本政府は早い段階で賛同しました。リビアとそれほど密接な関係を持たない日本政府が、短時間でどのように状況分析を行って、「賛同」という結論を導いたのか極めて不透明です。憲法9条を持つ日本は、本来、主権国家への軍事的介入については他国以上に慎重であるべきでしょう。しかし、私たちが知る限り、判断に当たって中東の専門家やNGO関係者からヒアリングや情報収集を行った形跡がありません。ましてや、軍事介入に伴う影響を国会での審議など十分な検討を行われた形跡がありません。更に、日本政府は、これまでのイラクやアフガニスタンの事態についても十分な検証をしておらず、「平和構築」のみならず「保護する責任」に関する議論を十分に行ってはきていません。政府が「平和構築」を国際協力の基軸に据えるのであれば、また国際社会において責任ある対応を果たしたいと考えているのであれば、過去の失敗に真摯に向き合うことを避けてはいけません。それをせずに、国際社会の流れにのって「人道的介入」を認めてしまえば、日本の主体的な平和外交について、中東のみならず国際社会の信頼を喪失することになるのではないでしょうか。

JVCは、イラクやアフガニスタンにおいて、国際社会の軍事介入を受けたことによってもたらされた社会的混乱の中で、長期間にわたって苦しむ人々に寄り添って活動を続けてきました。「人道的介入」の名の下で行われる軍事介入は、現地の人々に多大な犠牲をもたらす危険性あることは、過去の事例から明らかです。暴力(軍事衝突)は暴力(武力介入)によって解決はしません。人道危機の回避は、「Do No Harm」(危害を加えない)という原則の下で、政治的思惑を離れ、暴力の加入を行わずに、公平な人道支援活動を通して実現すべきものではないでしょうか。JVCは、これまでの紛争地での活動経験から導いた教訓を元に、これからもリビア情勢を注視していく所存です。

(調査研究・政策提言担当 高橋清貴)

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