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2016年10月31日

南スーダンの首都ジュバ、緊急支援日記(3)

JVCスーダン現地代表 今井 高樹
2016年10月31日 更新

前回から続く)

9月5日 <自衛隊の駆け付け警護「聞いたこともない」>

 

南スーダンには、「南スーダンNGOフォーラム」という自主的な集まりがある。合計200以上のNGOが加盟しており、JVCもそのメンバーだ。加盟団体は年会費を支払い、フォーラムとして数人の常勤職員を抱えている。そのうち2名が安全対策担当だ。NGOの安全対策は基本的に個々のNGOが独時の方針を持ち独自の責任において行っているが、日常的な治安情報の交換や、緊急時の対応も含めてNGOフォーラムの役割は大きい。毎日の治安レポートを発行するほか、人道支援団体に対する襲撃、強盗等の情報はリアルタイムでEメールや携帯電話で交換される。また週1回、NGOの安全対策担当者たちは会合を行い、治安情報の分析と安全対策についての議論を行っている。
私は毎週の会合に参加できていないので、この機会に、NGOフォーラムの安全対策の担当者を訪ねてみた。

ジュバ市内での各NGOの安全対策から、緊急時の退避方法、信頼できるタクシー会社の電話番号まで、参考になる話を色々と聞かせてもらった後、
「ところで最近、日本政府が、PKOに派遣している日本の部隊に、武装勢力に襲撃されている『NGO職員など』を救出するような任務を与えようとしています。何か聞いていますか?」
と尋ねると、
「いやあ、全然。初耳だよ。そんな話があるんだ」
という答えが返ってきた。

NGO職員(だけではないが)を救出するという名目で、憲法問題にまでなって日本では議論されているのに、実は当のジュバでは、「救出対象」であるNGOから要請があったわけでもないし、日本政府がNGOと打ち合わせをしたわけでもないし、そもそも知らせてもいない。いったい何のため、誰のために、どこから「駆け付け警護」などという話が出て来たのだろうか。

9月6日 <大統領府の弾痕>

ジュバに入って以来、教会関係の援助団体を中心に接触を試みていた。7月の戦闘時にジュバでは4万人以上の避難民が発生したと言われるが、半数以上は国連施設に保護を求めたらしい。これらの避難民に対しては国連が支援を行っていると思われた。
残りの半分弱は、その多くが教会施設に避難した。今回、私たちが支援の対象として想定しているのは、教会に逃げ込んだまま未だに避難生活を続けている人々、或いは、家に戻ったけれども生活の再建が困難な人々である。こうした人々についての情報を得るため、特に教会関係の団体に焦点を当てていたのだ。

この日は、郊外に事務所がある教会系の団体を訪問したものの、活動は以前から実施している職業訓練が中心で、特に7月の戦闘の被災者に対する支援は実施していなかった。
少しがっかりして市内に引き返そうとすると、大きな工事現場が見えた。ここはジュバの南郊で、眼下にはナイル川が流れている。日本の政府開発援助(ODA)による、ナイル架橋の工事だ。
近くに行ってみると、日章旗、日本企業やJICA(国際協力機構)のマークが入った大きな看板が立っている。私が眺めていると、関係者らしき南スーダン人が話しかけてきた。

「JICAの人かい?」
「いやいや、全然関係ないんです。ちょっと、工事現場を見ているだけです」
「向こう岸まで渡れるよ」

既に工事車両のための仮設橋が出来上がっており、渡ることができるらしい。これから工事が本格化するところで7月の戦闘が起きてしまった。JICA職員をはじめ日本企業の技師など、外国人は全て撤退し、工事も中断している。
ジュバ市民の間で、この橋の工事は有名だ。現在ナイル川にかかる1本だけの橋は老朽化が激しく、2本目の橋への期待は高い。「早く工事を再開して欲しい」という声も聞いた。日本の自衛隊についての評価や期待をジュバ市民から聞くことはほとんどないが、JICAの名前はよく知られており、ナイル架橋だけでなく、これまでジュバ市内で実施してきた給水施設や道路や橋の整備について「ありがとう」と私に声を掛けてくる人もいる。

仮設橋を渡るのは辞退して、クルマに乗り込んで工事現場を後にした。今日は、元JVCスタッフのタバンさんのクルマを借りて、彼が運転している。
「どっちから市内に戻ろうか」
もと来た道を戻るほかに、郊外の外環道路を西に走り、大回りしながら市内に入る別ルートもある。せっかくなので別ルートを通って市内に戻ることにした。この外環道路も、JICAの支援による都市計画に基づいて建設されたもので、新しいナイル川の橋はこの道路に連結している。
走っていくと、市の西側にそびえる山、ジェベル・クジュールがどんどん近づいてくる。山の少し手前を右折して市内に戻る道に入ると、やがてジェベル市場が見えてきた。7月の戦闘時に最もひどく略奪被害を受けた市場だ。
「見てみろよ。店がみんな閉まって、誰もいないだろう」
道路の両脇に立ち並ぶ商店街は、人影もまばら。道路沿いには営業している店もあるが、その後ろに続く店はすべて扉を閉ざし、無人の商店街が続いていた。

クルマは市街地の舗装道路に入り、次の訪問先である南スーダン教会評議会に向かう。
警察署を右折してメイン・ストリートに入り、大統領府の前に差し掛かる。機関銃を向けて警戒する軍用車両の前を通り過ぎると、大統領府の塀には無数の弾痕が続いている。道路を挟んで反対側の塀も大小の弾痕だらけだ。正面の門の脇に見張り台があるが、窓ガラスは破壊されたまま。
7月8日、大統領と副大統領が大統領府の中で会談をしている最中に、その外側で大統領の警備兵(政府軍)と副大統領の警備兵との間で銃撃戦が始まった。ここでの死者は100名とも200名とも言われ、いま走っているこの道路にも死体が散乱していたそうだ。この銃撃戦が、7月11日まで続く4日間戦争の発火点になった。

南スーダン教会評議会の事務所は、大統領府のすぐ斜め向かいにある。 訪問すると、ジュバを含むエクアトリア地域の責任者であるレッチャさんが笑顔で出迎えてくれた。

この団体はその名の通り、宗派に関係なくこの国の教会全般を束ねている。同時に、独自の人道支援・社会福祉活動や、収益事業も手掛けている。JVCが過去に運営した車両整備工場も、元々は教会評議会が設立したものであり、私たちは評議会と協力して整備・職業訓練の事業を行ってきた。そして、2010年には、この評議会に工場と職業訓練を引き継いだ。つまり、JVCにとって教会評議会は古くからの友人であり、レッチャさんと私も十年近い付きあいになる。

「レッチャさん、7月8日にはこんなに近くで戦闘が起きて、大丈夫でしたか?」
そう尋ねると、
「自分はラッキーでね、その日は仕事を休んでいたんだよ」
とのこと。奥さんと市場で買い物をしていた最中に遠くから銃声が聞こえ、人々はパニック状態で逃げ始め、レッチャさん夫婦も「帰宅難民」になった話をひとしきりしてくれた。
「この事務所の中にも銃弾が飛び込んできてね」
至近距離なのだから、それも不思議ではない。
「ほら、そこの会計室の中だ」
見せてもらうと、銃弾は会計室のドアを貫通し、中の事務机まで届いていた。幸いにも、その時は部屋の中にスタッフはいなかったという。

 改めて、来訪の理由をレッチャさんに説明した。
「教会に避難した人たちか・・もうほとんどが家に戻っているね」
「その人たちの家というのは、教会は分かっているのでしょうか?」
「そうだなあ・・市内の色んな場所から避難してきていたし、人数も多かったからね。
今から家を探して何か支援するのは難しいかも知れないな」
 話してみると、レッチャさんはあまり情報を持っていないようだった。ここよりも、直接教会に行って話を聞いた方がよいのだろう。そう思って、そろそろ失礼しようとすると、
「そうだ、それよりも、まだ避難したまま家に戻れない人たちがいるかもしれない」
 なんだ、それを早く言ってくれればいいのに。
「それはどこですか?」
「グンボだ」
ナイル川を渡った対岸の地区だ。
「そこの、ドン・ボスコ・ミショナリーの施設だ」
「分かりました。調べてみます」
レッチャさんにお礼を言って外に出ると、だいぶ日が傾いていた。
明日は教会に行って、ドン・ボスコ・ミショナリーにも接触してみよう。

(続く)

(おことわり:文中に登場する人物について、本人が特定されることを防ぐため一部で仮名を使っています)

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