2014年12月の記事一覧
カドグリの町は、三方を丘に囲まれています。北側、南側、そして西側。イザディーンさんの家は、その西側の丘の麓にありました。
「おお、よく来たな。まあ、ゆっくりお茶でも飲んでいってくれよ」
アドランとタイーブが庭先の椅子に腰掛けると、シャイ(紅茶)と山盛りの砂糖が運ばれてきました。砂糖をたっぷり入れるのが、スーダン流です。
イザディーンさんは、水道関係の工事をしている業者さん。JVCが設置したウォーターヤードの建設にも参加しています。今日は、仕事帰りのJVCスタッフ二人を家に招いてくれました。
「ステキな場所に家がありますね」
タイーブは、上の方を見上げて言いました。庭には大きな木が枝を広げ、その後ろはすぐに丘の斜面がせりあがっています。
「そうだろ。オレは山のそばが好きなんだ。村にいた時は、山の中に住んでいたくらいだ」
「どこの村の出身ですか」
「ブラムの近くの、小さな村だよ。そうだ、写真見るか?」
ブラムと言えば、今は反政府軍の実効支配地域の中です。そこに近づくことすら、できません。

イザディーンさんはパソコンを開いて、保存されている写真を何枚か見せてくれました。
「みんな、紛争が起きる前に撮った写真だ」
穏やかな村の様子。とんがり帽子のような草ぶき屋根が、丘陵の尾根まで連なっています。斜面には石垣で固めた段々畑が続き、長い柄のついたショベルを持った村人が畑仕事をしていました。
「今の紛争が終わったらな、あんたらの団体、なんて言ったっけ?日本なんとか...」
「JVCです」
「そう、そのJVCも、うちの村に来て活動をしたらどうだ」
「紛争は、終わると思いますか」
思わず、アドランが尋ねました。州政府関係者に知り合いの多いイザディーンさんなら、何か分かるかも知れません。
「終わるさ。終わらない訳ないだろ」

JVCスタッフが訪れた時、ディナールさんとその姉妹は婚礼に向けた準備で忙しそうでした。化粧品や装飾品など、結婚前には普段と違う特別なものを揃えなくてはなりません。すでに、様々な小物が台座の上に並べられていました。
「おめでとう」
婚礼前だと知ったスタッフのサラが声を掛けると、
「ありがとう。でも、これ、初めてじゃないのよ」
と言って笑うディナールさん。どう見てもまだ十代の若さなのに、2回目の結婚でしょうか。
「最初の人が、死んじゃってね」