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2014年7月30日

井戸の修理と村のもめごと(1)

JVCスーダン現地代表 今井 高樹
2014年8月 5日 更新

JVCスタッフが到着すると、既に工具を手にした村の男たちが待ち構えていました。

巨大なスパナのようなその工具は、地中に延びた井戸のパイプを引き揚げるための道具です。これから、村人による井戸の点検・補修が始まるのです。

「みなさん、おはようございます。JVCスタッフのタイーブといいます。こちらは、水公社(水公社:Water Corporationは、スーダン政府の給水事業体。日本でいう水道局にあたる)から来てくれた技師のアルヌールさんです。きょう一日、皆さんの作業を見ながらアドバイスをしてくれます。分からないことがあったら何でも聞いてください」

タイーブが紹介したアルヌール技師は、普段は新しい井戸の建設に従事しています。今日は忙しい合間を縫って、村人を手助けするために来てくれました。
「よし、さっそく始めようか」
工具を手にした村人が声を掛けると、十人以上が立ち上がって目の前の井戸に取り掛かりました。

私たちはこの半年間、避難民や地域住民が作る菜園に灌漑用水を供給し、同時に生活用水としても利用するため、5つの集落で計10本の手押しポンプ付き井戸を補修してきました。今回の「現地便り」では、そのうちのひとつ、ムルタ・ナザヒン地区のトマ集落で6月に行った補修の様子をご紹介します。

トマは、カドグリ市街から北に20キロ、カドグリ空港の滑走路の奥にある集落です。空港といっても、民間定期便はありません。軍用機と国連機だけが離着陸する空港です。

5月に行った住民との話し合いには、シエハや井戸管理委員会メンバーが集まった5月に行った住民との話し合いには、シエハや井戸管理委員会メンバーが集まった

最初にこの集落を訪れたのは5月のことでした。
驚いたことに、なんと6本の手押しポンプ付き井戸のうち3本が使えなくなっていました。
中には1年以上にわたって故障したまま放置されているものもあります。
どうしてそんなことになってしまったのでしょうか。住民との話し合いで、私たちは尋ねてみました。

「ほんの1年半ほど前までは、村人から少しずつおカネを集めて、自分たちで修理していたのだよ」
と答えたのは、この集落のシエハ(住民リーダー)。シエハによれば、村の井戸管理委員会のメンバーには修理の経験がある技術者がいて、集めたおカネで交換部品を買って修理していたのだそうです。
「でも、そのあと、ちょっとしたもめごとがあってな、おカネを集めるのをやめてしまったんだ」
「もめごと」とはいったい何だったのか、それ以上の説明はありませんでした。いずれにせよ、集金をやめてしまったら修理はできません。

「仕方ないから、多少調子が悪かったり、ヘンな音がしていても、そのまま井戸を使っていた。だがそのうちに1本、また1本と故障して、ついに3本も動かなくなってしまった。こりゃいかんと思って点検したら、あっちこっちが壊れていて、修理するには部品代がとんでもなく高いことがわかったのだよ」

そういえば、以前、水公社の技術者が言っていました。井戸を定期的に点検・整備をすれば補修費用は消耗部品の交換程度で少なくて済む。でも放ったらかしにして無理に使い続けたら、最後には重要で高価な部品が破損して、費用が数十倍にも膨れ上がる、というのです。
「村には技術者がいて、いつだって修理できる。交換部品さえあればな...」

井戸3本の故障は深刻な問題です。
私たちが交換部品を支援することはできます。しかしその後、もし村人が集金を再開せず、点検整備を怠ったら、近い将来には再び同じように井戸が故障してしまうでしょう。
「もう一度、井戸管理委員会を選び直して、おカネを集め始めよう」
誰かが、そう言い始めました。
「よし、ひと家族につき毎月2ポンド(スーダンポンド)を集めたらどうだ?」
「いいけど、村には牧畜民もいるぞ。家畜に水を飲ませるのに、同じ負担でいいのか?」
「牧畜民は月に10ポンドだろう」

意見が飛び交っています。
「よし、みんないいか。今回は、ムナザマ(アラビア語で「団体」の意味。ここではJVCを指す)に交換部品の支援をお願いするけれど、支援してくれるのは今回だけだ。あとは、自分たちで毎月おカネを集めて、修理をするようにしなくてはいかん」
シエハがまとめると、みなうなずきました。こうして、JVCが部品を提供することが決まりました。

村の男たちが掛け声に合わせて、巨大スパナを使って井戸のパイプを引き揚げていきます。
引き揚げると、村の技術者がポンプやパイプの状態をチェックして、交換が必要な部品を書き出していきます。アルヌール技師がその様子をうかがっています。

井戸上部のハンドルや給水口を取り外す。左は作業を見守るアルヌール技師井戸上部のハンドルや給水口を取り外す。左は作業を見守るアルヌール技師
巨大スパナをパイプに引っかけて、上へ上へと持ち上げる巨大スパナをパイプに引っかけて、上へ上へと持ち上げる

交換部品を書き出すと、村人がその紙を技師に渡しました。技師はしばらく眺めてから、
「よし、この紙に書いてある通りの交換部品でオッケーだ」
と言って紙を戻しました。
そしてタイーブを振り返って、
「この村の技術者は、かなり経験があるみたいだね。任せておいても、大丈夫だよ。今日は、オレはやることないね」
と笑っています。

パイプを抜いた後、井戸内部に垂らしたヒモで水深を測り、十分な水量があるかどうかを確かめる。アルヌール技師、暑いらしく長袖シャツを脱いでランニング姿。パイプを抜いた後、井戸内部に垂らしたヒモで水深を測り、十分な水量があるかどうかを確かめる。アルヌール技師、暑いらしく長袖シャツを脱いでランニング姿。
お昼ごはん。後ろに見えるのはトマ集落の小学校お昼ごはん。後ろに見えるのはトマ集落の小学校

井戸2本の点検が終わり、昼食の時間になりました。大きなお盆に乗って男の子が料理を運んできます。お盆の真ん中には、「ムラ」と呼ばれるシチュー。そのまわりに丸型のパンがたくさん並んでいます。みんながお盆の周りに座り、パンをちぎって真ん中のシチューにつけて食べる、それがスーダンの食事の作法。この昼食は、シエハが振舞ってくれているようです。

昼食後、男たちは3本目の井戸に移動。その井戸は、手押しポンプが取り外されていました。周囲には、たくさんの家畜の水飲み場の跡があります。
「手押しポンプを持ってこないと点検ができないぞ。どこにあるんだ?」
「取り外したのはハミスだろう。ハミスの家にしまい込んであるんじゃないか」
ハミスさんは、井戸管理委員会のメンバーのひとりです。しかし、今日は参加していません。
「一体どこにいるんだ、ハミスは?」
「カドグリの町に行くとか言ってたぞ」
シエハが携帯電話を取り出して、ハミスさんの番号に掛けました。電話はつながったようですが、どうも様子がヘンです。何やら電話口でもめています。

「ハミスは、この井戸は修理させないと言っている」
電話を切ったシエハが、皆の方を向いて言いました。タイーブにとっては、寝耳に水の話です。いったい、何が起きたのでしょうか?
実は、シエハが言っていた「もめごと」とは、この3本目の井戸のことだったのです。

(続く)

【おことわり】
JVCは、スーダンの首都ハルツームから南に約700キロ離れた南コルドファン州カドグリ市周辺にて事業を実施しています。紛争により州内の治安状況が不安定なため、JVC現地代表の今井は首都に駐在し、カドグリではスーダン人スタッフが日常の事業運営にあたっています。このため、2012年1月以降の「現地便り」は、カドグリの状況や活動の様子を、現地スタッフの報告に基づいて今井が執筆したものです。なお、文中に登場する住民の名前には仮名を使わせていただいております。

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