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2014年6月16日

はじめての銀行預金

JVCスーダン現地代表 今井 高樹
2014年6月24日 更新

JVCが設置したティロ避難民住居のウォーターヤード。前回までは、菜園への灌漑用水をめぐる「いざこざ」について書いてきました。菜園メンバーからすれば、井戸管理委員会は家畜給水の収入があるくせに、菜園には水を流さない「悪者」のようにも見えます。はたしてどうなのでしょうか。
そこで、今回は井戸管理委員会の側にスポットを当てて、家畜給水にまつわる話をご紹介します。

乾季が始まって間もない12月頃、300キロも北の乾燥した地域で雨季を過ごしたウシたちが、カドグリの周辺に戻ってきます。その数は1万頭とも2万頭とも言われます。郊外の草原に牧営地を設け、牛飼いの男性たちはドーム型のテントを張ってウシと生活を共にします。
牧営地のまわりには、長年にわたり使われている水場があります。それはハフィールと呼ばれる大型の溜池であったり、牧畜民が自分たちの手で掘り込んだ井戸だったりします。もちろん利用料金などありません。しかし、乾季が半ばに差し掛かる2月頃、それらの水場は枯渇していきます。そうなると、牧畜民は料金を支払ってでも各地区にあるウォーターヤードの水を利用することになります。カドグリ周辺のウォーターヤードは地下30~50メートルの帯水層から取水しており、乾季でも水が豊富です。

カドグリ郊外のハフィール(今年1月撮影。もう水量がわずかになっている)カドグリ郊外のハフィール(今年1月撮影。もう水量がわずかになっている)
牧畜民は涸れた川底のあちこちに穴(井戸)を掘り、ウシに飲ませるため汲み上げた水を溜めておく牧畜民は涸れた川底のあちこちに穴(井戸)を掘り、ウシに飲ませるため汲み上げた水を溜めておく

ティロ避難民住居のウォーターヤードに牧畜民が家畜を連れてくるようになったのは2月初旬。井戸管理委員会と家畜の持ち主との間で利用料や支払い方法(日払い、月払いなど)を取り決め、給水が始まります。利用料は、毎日1回の給水でウシ1頭あたり月額10スーダンポンド(以下ポンド)。しかし実際には、持ち主が「いやいや、オレの群れには仔牛が多いから、そんなに水は飲まないぞ」と値切りを始め、井戸管理委員会のリーダーが群れを眺めて「そんなことないぞ。体のデカい奴ばかりじゃないか」と応じながら、交渉を通じて値決めされます。結果として、1頭あたりの月間利用料は平均9ポンド程度になっています。
「利用契約」は、次々に成立していきました。半月後には給水する家畜が毎日395頭に達し、気が付くと3月初めには8人の持ち主と契約が結ばれ、ウシ562頭、ヒツジ52頭が入替わり立替わりウォーターヤードの給水桶に首を突っ込んで水を飲むようになっていました。しかも、その数はその後さらに増えることになります。
「これは、さぞかしガッポリと利用料が入るに違いない」
毎日押し寄せるウシを見れば、誰もがそう思います。
しかし、それもおカネが回収できれば、の話です。

3月下旬、いつもの木の下で、井戸管理委員会の話し合いが行われました。議題の中心は、牧畜民からの給水利用料の回収状況です。
リーダーのブシャラさんと、ウォーターヤードの管理人で会計係でもあるアフマドさんが、青い小さなノートを見ながら説明してくれました。「UNICEF」(ユニセフ)のロゴが入った小学生用のノートです。市場から買ってきたのでしょうか。会計の記録帳に使っています。
「今月初めまでに8人の牧畜民と契約しました。ひとりめは、モハマドさん。ウシ120頭で、毎月の料金は1,200ポンド。最初の1か月分のうち、1,000ポンドを払ってくれましたが、200ポンドは『待ってくれ』と言われています」
このようにして、8人全員について順番に説明してくれました。それによれば、8人のうち最初の1か月分を全額支払ったのは1人だけ。一部を支払っているのが3人。あとの4人は未回収です。金額については、全員の1か月分の利用料を合算すると5,375ポンドですが、そのうち回収できているのは2,240ポンド。半分以下です。
「なかなかおカネが集まらないんだ。そもそも、家畜の持ち主はウォーターヤードに姿を見せない。牛飼いの若者や子供が来るけど、料金のことを尋ねても『自分は知らない』と言われてしまう」
とアフマドさん。ブシャラさんが、
「これからは、持ち主の家を訪問して回収するしかない」
と付け加えました。

回収状況の悪さはさておき、とりあえず2,240ポンドの収入はありました。支出はどうでしょうか。
これも、ユニセフのノートを見ながら説明してくれました。
「発電機の燃料用の軽油が450ポンド、オイル交換で120ポンド、それにオレたち二人、ブシャラとアフマドの管理人手当が二人分で300ポンド。合計で、支出は870ポンド」  収入から支出を差し引くと、1,370ポンドになります。
「で、これがその現金だ」
アフマドさんが、取り出したポンド札を見せて皆の前で数えてくれました。
「そっちが、燃料代やオイル交換代の領収書」
木の真下に座った井戸管理委員会の女性メンバー、ニダさんとサファさんが領収書を手に取って眺めています。委員会メンバーの半分以上は読み書きが不得意なのですが、それでもこうして書面を手にすればなんとなく納得感があります。

現金を数えるブシャラさん(左)と、領収書を眺める井戸管理委員会メンバー現金を数えるブシャラさん(左)と、
領収書を眺める井戸管理委員会メンバー

「手元に残ったおカネはどうするんだ?」
質問が出ました。ブシャラさんが答えて、
「ウォーターヤードが故障した時の修理代に備えて、おカネは取っておかないといけない。去年、井戸管理委員会の銀行口座を開いたから、そこに預けよう。アフマド、週明けに銀行に行ってくれるか」
「えっ...い、いいけど、オレひとりで行くの?」
 アフマドさん、銀行と聞いていきなり不安そうな顔になりました。
「大丈夫。ムナザマ(アラビア語で「団体」の意だが、NGOを指して使われることが多い)の人が一緒に行ってくれるよ」
 ブシャラさんがそう言うと、みんな、JVCスタッフのタイーブの方を振り向きました。
「あ、はい、分かりました。いいですよ」
口座開設の時にもJVCが立ち会っているので、銀行の事情はよく分かっています。

最後に、それまで黙って聞いていたウムダ(住民リーダー)のバクリさんが発言しました。バクリさんは、井戸管理委員会の後見役のような立場です。
「今日の話し合いはとても良かった。どれだけのおカネが集まって、何に使われたのか、いくら残っているのかが、これでハッキリした」
とまとめて、話し合いは終了しました。

数日後、カドグリ市内の銀行にアフマドさんとタイーブの姿がありました。アフマドさんは、口座を開設した時に銀行から受け取った書面を持ってきています。そこに、口座名や口座番号が記載されています。
「アフマドさん、この用紙に書くんだよ」
タイーブが、口座入金の申込用紙を取ってきました。アフマドさんは、黙ってタイーブに口座番号が記載された書面を手渡しました。記入してくれ、ということのようです。アフマドさんは、数字を読むのは問題なくできますが、文字の読み書きはあまり得意ではありません。そんなことも、銀行に行くのが不安な原因なのかも知れません。そもそも、避難民住居に住むほとんどの人々にとって銀行は縁遠い存在です。
タイーブが記入した用紙を持って、二人は窓口に行きました。入金は、無事に完了。
アフマドさんも、ほっとしたようです。
「この次も、また一緒に来てくれるよな」
そんなことを言っています。

給水利用料の回収が遅れているのは問題ですが、何はともあれ、いくらかの収入を上げて銀行に預金ができたのは、小さな井戸管理委員会にとっての大きな一歩です。

(続く)

【おことわり】
JVCは、スーダンの首都ハルツームから南に約700キロ離れた南コルドファン州カドグリ市周辺にて事業を実施しています。紛争により州内の治安状況が不安定なため、JVC現地代表の今井は首都に駐在し、カドグリではスーダン人スタッフが日常の事業運営にあたっています。このため、2012年1月以降の「現地便り」は、カドグリの状況や活動の様子を、現地スタッフの報告に基づいて今井が執筆したものです。

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