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2013年12月15日 【 避難民向け住居への給水活動

ウシはどこにいる?

JVCスーダン現地代表 今井 高樹
2013年12月26日 更新

「本当に、来るのかよ」
「毎朝8時頃にはここに集まるって聞いたんだ。もう少し待ってみよう」

モスクの脇に停めたクルマの中で、JVCスタッフのタイーブとアドランはあたりの様子をうかがっています。ここは、ティロ地区の避難民向け住居に程近いティロ本村。時刻は8時を10分ほどまわっています。

「そろそろ来ると思うんだけどなあ」
アドランは、待ちきれない様子で外に出て遠くを眺めています。タイーブはクルマの中で半分居眠り。今日はいつもより早起きをしてここにきたので、寝足りないのかも知れません。

「おいっ、タイーブ、あれを見ろ」
アドランが叩き起こしました。タイーブが眠い目をこすって見ると、土煙をあげてウシの群れがこちらに向かってきます。

広場に集まってきたウシたち広場に集まってきたウシたち

「おお、やっと来たか」
10頭くらいの群れでしょうか。クルマの近くを通り抜けて、モスクの脇の広場に入っていきます。すると、後から後から、いくつもの群れがやってきました。あっという間に、広場は数十頭のウシで埋まりました。

牛追いの棒を握っている若者に話しかけてみました。
「なに?ここにいるウシのことかい?これはね、ぜんぶゴズ集落のウシさ」
ゴズというのは、ティロ本村の隣の集落です。
「毎朝、ゴズの家々からここにウシが集まってくるのさ。それをオレたちが、草を食べさせに村の外に連れて行くんだ...おっと、もう行かなくちゃいけないな」
若者の仲間たちが、ウシを追い立て始めています。あっという間に、ウシは全部行ってしまいました。

JVCは、ここから1キロほど東にある避難民向け住居で、ウォーターヤードの建設工事を行っています。完成後は住民の井戸管理委員会が運営をする予定ですが、委員会は「この地区では牧畜民がたくさんのウシを所有している。乾季には毎日300頭がウォーターヤードに水を飲みに来て、その利用料で燃料費などの運営経費はまかなえる」と見込んでいます。しかし、本当にそんなにたくさんのウシが来るのでしょうか?

「確かに、このあたりにウシがいるのは分かった...だけどタイーブ、数十頭しかいないじゃないか」
「それは違うぞ、アドラン。今は雨季だからウシの数が少ないんだ。乾季になったら北コルドファンに行っているウシが戻ってくるはずだ」
タイーブは牧畜民の家系に生まれたので、多少の知識があります。
「よし、ゴズ集落に行って、話を聞いてみよう」

ゴズ集落では、運よくウムダ(住民リーダー)に会うことができました。まだ40代に見える若いウムダです。
「そうだ。あんたらが言う通り、この地域のウシはほとんどゴズの住民が持ち主だ」
「全部で何頭くらいいるのですか?」
「2千頭はいるだろう」
「そんなに!」
思わず、アドランとタイーブは顔を見合わせました。
「でも、今朝見たのは、数十頭でした」
「そりゃそうだ。ミルクを搾るウシを少しだけ残して、あとは全部、村の男たちが北コルドファンに連れて行っているのさ。でも、あと1か月もすれば戻ってくるぞ」

このあたりの牧畜民は、雨季にはウシに病気を媒介する蚊やハエの発生を嫌い、空気が乾燥した北コルドファンにウシを移動させます。そして乾季には、牧草や水を求めてカドグリ周辺に戻ってきます。移動距離は片道だけで200~300キロにもなります。しかし、このゴズに2千頭ものウシが戻ってきたら、集落からあふれてしまいそうです。
「そんな心配はない。ウシは集落の中に連れてくるわけではなく、外の放牧地に"囲い"を作って、その中に入れるんだ。牛飼いもテントを張って一緒に生活する」
なるほど、そういう仕組みなのですね。
「この戦争(紛争)が始まる前はな、村の東側、小川を越えてずっと向こうの方まで放牧できたんだ。今は、小川から先は危なくて行けなくなってしまった...しかも今年になって、小川の手前にも新しく人が住み始めた」
「避難民向け住居ですね」
「そうだ。それで、放牧地がどんどん狭くなる」
避難身向け住居の建設には、実はそんな負の側面もあったのです。
「では、こんどウシが戻ってきたら、どこで放牧するのですか?」
「そうだな。避難民向けの住居の南側や北側にはまだ草地があるから、そのあたりだな」

ウムダが話す通りなら、乾季には2千頭のウシが避難民向け住居の南北に住み着くことになります。11月になれば、それも分かるでしょう。
ウォーターヤードでは10月初旬までに給水関連の工事が終わり、イスラムの祝日(犠牲祭)をはさんで、下旬から機械室とフェンスの工事がスタート。雨季は終わりを告げ、カレンダーは11月に変わりました。工事の終了はもう間近です。

ティロ地区の概念図ティロ地区の概念図

「アドラン、ゴズ集落のウシも、そろそろ戻ってきてるんじゃないか」
牧畜民の血が騒ぐのか、タイーブはウシのことが気になるようです。
「よし、見に行ってみるか」
戻ってくるウシはゴズ集落に入るのではなく、避難民シェルターの南北にいるはずです。クルマはゴズ集落を通過し、ティロ本村を抜けて真っ直ぐに走ると避難民向け住居ですが、今日は斜め左に道を折れ、北側に向かいます。
畑の中をしばらく走ると、やがて左手に小さな丘が迫ってきます。雨季には緑のビロードのように見えたこの丘も、乾季に入ってすっかり茶色に変わっています。ふもとには小さな用水池がありました。

用水池では、ウシが去ったあと三輪自動車の運転手が水浴びをしていた用水池では、ウシが去ったあと三輪自動車の運転手が水浴びをしていた

「おい、ウシが水を飲んでいるぞ」
クルマを下りると、群れはちょうど水を飲み終わったところでした。牛追いをしている青年にタイーブが近づいて挨拶をしました。
青年の名はファキさん。1メートルもある太い棒を手に、50頭のウシを追っています。3日前に北コルドファンから戻ってきたばかりです。ゴズ集落に家はありますが、家畜と生活をともにしているようです。
「今は、ウシと一緒にあっちのテントにいるんだ」
用水池に背を向けると、建設中のウォーターヤードの青い給水塔が遠くに見えます。彼が指さしたのは、こことウォーターヤードとの中間、避難民向け住居の北側にあたります。

池の水を飲んだあと草原に戻る群れ池の水を飲んだあと草原に戻る群れ

「ウシに水を飲ませるのは、いつもこの池?」
アドランが尋ねました。そうそう、水のことが大切です。
「そうだけど、1月になるとこの池は涸れてしまうよ。そのあとは、涸れた小川の底に自分で穴を掘って水を汲むんだ」
「こんど、あそこに新しいウォーターヤードができるんだ」
アドランは、売り込みをしたいようです。
「へえ、そうなのかい」
ファキさんはたいして気に留めるふうでもなく、「じゃあな」と言ってウシを追いながら草原に消えていきました。

確かに、ウシは戻ってきています。しかし牧畜民には、用水池にせよ、手掘りの穴にせよ、長年にわたり使い続けてきた給水所があります。彼らが新しいウォーターヤードにやって来るとは限らないのです。
やはり、ウシには過度の期待をせずに井戸の収支計画を立てた方がよさそうです。

【おことわり】
現在、JVC現地代表の今井をはじめNGO外国人スタッフが南コルドファン州に入ることは、スーダン政府により制限されています。このため、2012年1月以降の「現地便り」はカドグリの状況や活動の様子を、JVCスーダン人スタッフの報告に基づき今井(首都ハルツームに駐在)が執筆したものです。

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2014年1月28日 更新ウォーターヤードの引き渡し式
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2014年1月28日 更新消えたおカネ
2013年12月26日 更新ウシはどこにいる?
2013年12月 3日 更新取らぬ狸の収支計画?
2013年12月 3日 更新井戸管理委員会のマネジメント研修
2013年12月 3日 更新住民による井戸管理委員会が始動
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2013年11月11日 更新ウォーターヤードは誰のもの(1)水公社、それとも住民?
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