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歌と踊りと、催涙弾

JVCスーダン現地代表 今井 高樹
2011年2月 8日 更新

沸き立つ南部、その一方で北部では・・

「結果が出たぞ。独立だよ、独立」

1月31日の朝、事務所に出勤するといきなり南部スーダンのジュバから興奮した声の電話が入りました。電話の主は元JVC車両整備工場スタッフのビタレ。

「住民投票の結果なら知っているよ」という私の声をさえぎるように「98.83パーセントだ。98.83パーセントが『独立』に投票したんだ」と畳みかけるように言ってくる彼。結果を伝えたくて勇んで電話をしてきたようです。

投票結果の速報が発表されたのは30日の日曜日。南部スーダンでは人々が街に繰り出して歌い、踊り、交通の邪魔になるので制止しにきた警官も一緒になって騒ぎ出す・・といった光景が、新聞やテレビで報じられました。

南部で歌えや踊れやの祝祭が繰り拡げられていた同じ日曜日、北部の主要都市、ハルツームやエル=オベイドでは数千人が街頭デモを繰り広げていました。政府が補助金を打ち切ったために砂糖やガソリンの価格が急騰したことに端を発するデモの動きは、政治活動の自由や警察に拘束された政治犯の釈放、そして20年以上権力の座につくバシール大統領の退陣を求めて広がりを見せつつあります。もちろん、この間のチュニジアやエジプトの動きに影響されたものですが、スーダン独自の問題としてダルフール紛争の解決を求めるスローガンなども掲げられています。

ネット上に投稿された写真を見る限りはいたって平穏なデモですが、警察は催涙弾を打ち込み、こん棒をふるって弾圧。数十人の怪我人、逮捕者が出ています。警察に暴行された学生がその後亡くなったとの未確認情報もあります。

住民投票の前には、「投票前後に南部スーダンで不測の事態が起こるのでは」という見方がありました。しかしフタを開けてみれば、南部の中心都市ジュバはいたって平穏、むしろ北部スーダンのあちこちで上のような民衆デモが起こっているのです。

元々は整備工場の板金工だったビタレだが、その人脈と交渉能力を買われてJVCスタッフ時代は渉外担当に。現在は工場の部品調達担当だが、住民投票の期間は取材に訪れた日本人新聞記者の助手として活躍。元々は整備工場の板金工だったビタレだが、その人脈と交渉能力を買われてJVCスタッフ時代は渉外担当に。現在は工場の部品調達担当だが、住民投票の期間は取材に訪れた日本人新聞記者の助手として活躍。

「南部独立」で破棄される和平合意の精神

2005年の和平合意は、南北間の内戦を終結させたという意味だけでなく、北部も含めてスーダンという国全体のあり方を変える契機になり得る内容を持っていました。和平合意に基づいて成立した暫定統一政府は、従来の北部政権(国民会議党)の影響力を維持するものだったとはいえ、そこで定められた暫定憲法では、「スーダンは宗教、人種、言語、文化などの多様性を持った国家である」と規定されました。非アラブ系住民が多い南部を始め、しかし南部だけにとどまらず、それまで虐げられてきた少数派住民の権利も尊重されることが明記されたのです。

しかし、住民投票直前の昨年末、国民会議党のバシール大統領は「南部が分離独立した後のスーダンは、(和平合意のために作った憲法は取りやめて)イスラム法に基づく憲法を制定し、アラビア語を唯一の公用語とする」と宣言。これに対しては、イスラム穏健派とされる野党からも「イスラムの名を語っているが、反体制派や少数派の弾圧を目的とした動きだ」という批判が出ています。野党は抗議のデモを組織し、それがやがて食料やガソリンの高騰に対する不満とも相まって、学生や市民を巻き込んだデモに発展しています。この間、政府は野党の指導者を逮捕、デモ隊への暴力的弾圧で応酬してきました。

多様性の否定により、新たな紛争の気配も

私たちの活動地である南コルドファン州は北部スーダンに属しますが、人種、文化、宗教、言語の面での多様性を持った地域です。現在、4月に予定される州知事・議会選挙のための有権者登録が進められていますが、選挙に向けて、友人のコディさんは次のように話してくれました。

「選挙を通じて、政府に向けた私たちの意志表示をしなくてはならない。何より大事なことは、宗教や言語、文化の独自性が尊重されること。私たちヌバ(註)はこの土地に古くから住み、自分たちの言語や文化を持っている。ヌバの社会内部で起きた問題を解決するためには、私たちの慣習法がある。イスラム法を一律に適用したら問題の解決がかえって難しくなる」

コディさんのような政府に対して批判的な意見がある一方、バシール政権を支持する住民も州内には少なくありません。選挙に向けて、有権者登録所で両者が衝突、暴行事件に至ったケースも報告されています。

(註)ヌバ:南コルドファン州のヌバ山地を中心とするアフリカ系住民の総称。独自の言語、文化を持つ。

独自の言語と文化を持つヌバの人々。JVCの活動地、ウドゥ村にて。独自の言語と文化を持つヌバの人々。JVCの活動地、ウドゥ村にて。

現在のスーダンで進んでいることは、非アラブ系の「南部」という異物を切除して、スーダンをアラブ国家またはイスラム国家として「純化」する動きに見えます。しかし歴史をひも解けば、アフリカ系住民の土地にアラブ系住民が南下し、民族グループの言語にアラビア語が重なり合い、伝統宗教の上にイスラムやキリスト教の布教が展開されたスーダンは、その「混合」が今も現在進行形で続いているのです。言い換えれば、北部だけを取り上げても多様な国なのです。北部スーダンに属し、多数の非アラブ系住民を抱えるダルフールも、その多様性の一部をなしています。そうした多様性を否定して「純化」する動きは必然的に少数者、或いは主流派から見て周縁的な人々、への弾圧を伴うことになります。

長年の内戦の末にスーダンから切り離される南部で住民が祝祭を繰り広げる一方、残される北部では既に新たな紛争が始まる気配さえ見えます。スーダンという国全体を見れば、南部独立は決して手放しで喜べるような「解決」ではないように思えてなりません。


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