書評: 2012年10月アーカイブ

※宣伝 10/30, 11/6 スーダン(北,南)報告会やるよ!

1.jpeg

© Mirror Mountain Pictures


東京国際映画祭で、『アクセッション - 増殖』を見てきました。南アフリカの映画で、同国の女性への性暴力をテーマにしています。問題作といいますか、映画祭の中でも色々な意味で話題になっているみたいです。("アクセッション"でTwitter検索してみると、いろんな感想が読めます)

いつもですと、アフリカ関係の映画は、アフリカチームの会報誌である『アフリカと踊ろう!』(JVCの会員になると隔月で届く会報誌『Trial&Error』に挟み込まれてお届けしています)の中の「アフリカをみるよむきく」で紹介しているのですが、今号はスペースがなさそうなので、こちらで出張版として紹介します。

たぶん日本では今後上映もソフト化されることもなさそうなので、ネタバレどころかストーリーも全部書きます。いつか上映されることに賭けるよ!輸入して見るよ!という人は、この先読まないことをオススメします。


舞台となっているのは、ジョハネスバーグ(ヨハネスブルグ)の南東に位置するDuduzaタウンシップ。タウンシップというのは、アパルトヘイト時代に黒人居住区として定められた地域で、黒人はそこ以外に住むことを許されませんでした。アパルトヘイト撤廃後も、多くの黒人は貧しく、そのままその地域に住み続けています。

主人公のジョンは、そんなDuduzaに住む黒人男性。定職には就かず(といっても仕事自体少ないですが)、昼間から酒を飲んで、気晴らしのために女を探してはセックスをしています。


ストーリーを最後まで追いましょう。

ジョンは関係を持った一人の女性から、HIVに感染していることを告げられます。南アには処女と性交すればエイズが完治するというデマがあり、口ではそれを迷信と切り捨てていたジョンも、次第にその可能性にすがろうとします。彼は友人の妹をレイプし、処女ではないと怒ります。さらに赤ん坊を連れ去ってレイプし、その子を死なせて死体を川に放り投げます。そんなことでエイズが治るはずもなく、ジョンは初期症状と思われる嘔吐を繰り返します。最終的に、彼は妹をレイプした友人(もしくは殺した赤ん坊の父親)に、ナタで殺され、映画は終わります。


ストーリーからして救いがないですが、さらにこの映画をキツイものにしているのが、撮り方です。

この映画のほとんどの時間を占めているのは、主役のジョンのアップ。それも目的もなくタウンシップを歩く彼を、間近から手持ちのカメラで撮った映像で、画面は常にグラグラと揺れ動きます。

彼の感情や内面に焦点を当てているのであればその演出も納得ですが、これだけの出来事があっても、彼の表情は驚くほど変わりません。そのため観客は、これだけ長時間その顔を見ている彼に、最後まで感情移入することができないのです。


監督は、主人公を、感情移入させないために意図的に作ったキャラクターではなく、取材したタウンシップの多くの男性をモデルに、リアルさを追求した結果生まれたキャラクターだと、上映後の質疑応答で語りました。

そう、これだけのことをしでかすジョンは、狂人ではないのです。映画からもそれは見て取れます。彼が私たちとは違う常識、理解できない常識の中で生きているということが、痛いほどよく伝わりました。


アクセッションの感想を読んでいると、延々と同じ画で退屈という感想を度々見かけました。しかしこの"退屈"も、この映画を構成する一つの要素ではないでしょうか。

女性への暴力も、レイプも、ジョンにとっては退屈な日常のすぐ近くにあるもので、観客がジョンの顔のアップから逃れられないように、ジョンもまた、絶望的な日常から逃れられないでいるのです。


南アフリカでは、年間のレイプ被害数が25,000人、そしてうち半数が子供である。この数値は報告されているものだけで、実態はさらに何倍も大きいものと思われる。監督はそう語りました。そして自分が、この問題を映画化した最初の人間だと。この映画の大きな価値はそこにあります。

さらにもう一つ。この問題については、日本でもいくつか書籍が出ていますが、たいていは被害者の女性の視点で、男性が何を思ってそんなひどいことをするのかは、読んだことがありません。そんな中、この映画は、南アの女性への性暴力について、徹底的に男性側の視点で描いた希有な作品でもあるのです。


もちろん、南アの黒人男性は、こんな人たちばかりではありません。南アのJVCの活動の中で有機農業のトレーナーをやっているジョンさんのような男性もいます。しかし、南アにおける女性の性暴力被害の多さ、10代の妊娠の多さ、シングルマザーの多さを考えると、この男性の存在がリアリティをもって感じられ、絶望的な気持ちになります。

このアーカイブについて

このページには、2012年10月以降に書かれたブログ記事のうち書評カテゴリに属しているものが含まれています。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

お問い合わせ

お問い合わせは、こちらまで。

jvcafricaあっとgmail.com

(あっとを@に変えてご利用ください)